絶対に結婚したくない令嬢、辺境のケダモノと呼ばれる将軍閣下の押しかけ妻になる
 そう、マティアスは結婚式の間も、それが終わってからもずっと紳士だった。領民たちへのお披露目のため、馬車で移動している間も終始フランチェスカの体調を気遣っていたし、同時に両親への気遣いも完ぺきだった。
 両親も結婚式を見て安心したようで、ジョエルと一緒に涙を浮かべてフランチェスカの結婚を祝ってくれた。
 とにかく今日、フランチェスカは一生分の『おめでとう』を聞いた気がするが、あれはマティアスが領主として領民たちに慕われていることの証左だろう。

(なんだか、我が事のように嬉しいわね)

 フランチェスカはそんなことを考えながら、そのままごろんとシーツの上に横になり目を閉じる。
 瞼を閉じると、儀礼服に身を包んだマティアスが領民に熱烈に祝福されていた姿が思い起こされる。
 両親や兄夫婦のような特異な事例を除いて、基本的に貴族の結婚に恋愛感情はない。結婚は義務なのだから、それを寂しいと思うことはない。仕事のようなものだ。
 フランチェスカだって、兄の推薦と『人嫌いなら貴族の社交の場に出ることもないし、執筆を辞めなくて済むのでは?』という打算で結婚するのである。

 だがマティアスが領民に慕われている様子を見て、彼の足をひっぱりたくないと感じていた。
 半ば強引に貴族の身分をかさにきて押しかけて来たのだから、彼の利益になるような妻になりたい。

(そうよ、与えられるばかりではだめ。私もあの方に与える妻にならなければ)

 だがマティアスは落ち着いた大人の男で、きっとなんでも持っている。彼に足らないものなど何もな気がする。

(手っ取り早く恩返しできるとしたら……やっぱり跡取りを産むことかしら?)

 むしろそのくらいしか思いつかない。

「よし、がんばるわ……がんばって……こどもを……」

 むにゃむにゃつぶやいていると、疲れのあまり全身がずしんと重くなった。
 フランチェスカはそのまま泥のように眠りに落ちてしまったのだった――。

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