絶対に結婚したくない令嬢、辺境のケダモノと呼ばれる将軍閣下の押しかけ妻になる
 起こしてしまったのかと慌てて彼女の肩を撫でると、またすぐに眠りに落ちる。

「よかった……」

 ホッと胸を撫でおろしつつ、フランチェスカを見おろす。寒いと震えていた昨晩よりずっと顔色がいい。心配でたまらなかったが、アンナ曰くこうなると後は回復が早いので、明日には自分で食事をとれるようになるだろう、ということだった。

(そうか。元気になってしまうのか……)

 早く元気になってほしい。辛そうなところなど見たくない。
 だが同時に、もう少し彼女の面倒を見たいと思ってしまう自分がいる。頼られている快感が忘れられそうになっている。

「――まいったな」

 頭の中で『俺もあなたみたいな人にはすこぶる弱くて……好きですよ』と彼女に告げた言葉がずっとリフレインしている。
 一生懸命頑張っている人間に弱いと言ったのは嘘じゃない。
 ただそれ以上の感情をじんわりと持ち始めている自分に、マティアスはもう気づいていた。

(いやいやだめだ……。彼女は作家でいたいだけで、俺の妻になりたいわけじゃない。手段と目的をはき違えると、待っている未来は地獄だぞ!)

 フランチェスカは、マティアスをを愛しているから妻になりたいわけではない。そこを見失って、彼女の健気さにほだされて、本当の妻にしてしまっては、本末転倒だ。

(常に一歩、引いていよう。大人の男――保護者として振る舞おう。フランチェスカに深入りしないように気を付けなければ……)

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