絶対に結婚したくない令嬢、辺境のケダモノと呼ばれる将軍閣下の押しかけ妻になる

「――それでその……BBの本は取り寄せてくれたのか」
「明日には届きますよ。それにしてもあなたが小説を読むなんて珍しいですね」

 ベッドの側のテーブルに軽食とお茶がのったトレイを置き、ダニエルは意味深に目を細め、グレーの瞳を好奇の色に輝かせる。

「そりゃあ……わざわざ『シュワッツ砦の戦い』をモチーフにするんだ。どんな話を書くのか、知りたいのはおかしなことじゃないだろう」
「でも最初は、BBになにか思うことがおありでしたでしょう」

 ダニエルが眼鏡を中指で押し上げながら、ふふんと笑う。彼のいたずらっ子のような瞳にマティアスは心を見抜かれたような気がして、思わず反射的に言い返していた。

「俺がBBとフランチェスカとの仲を嫉妬したって言いたいのか?」

 口にした瞬間、自ら墓穴を掘ったことに気が付いた。
 奥歯を噛みしめると、

「まぁまぁ……ふふっ」

 ダニエルは楽しげに笑っていた。

「笑うな」
「失礼しました」

 ダニエルは仰々しく胸元に手を当てて一礼した。そして最後までニヤニヤしつつ、「なにかありましたらお呼びください」と部屋を出て行く。
 一応自分が雇い主ではあるのだが、圧倒的に人生経験に差があるせいか、ダニエルにはからかわれてばかりだ。

「くっそ……」

 耳のあたりがじわじわと熱を持ち、ぴりぴりと粟立つ。
 顔が赤く染まっているのが自分でもわかる。落ち着かせようと手のひらで顎のあたりのラインをなぞっていると、マティアスにしがみついていたフランチェスカが「ん……」と身をよじった。
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