推しの歌い手さま~想像してたのと違うんだが…~
○空港まで向かう道中の二人乗りのバイク


穂香にヘルメットを手渡したリュウが、早口で叫ぶ。


リュウ「乗ってっ!?空港まで行くよっ」


穂香「はいっ」


薄暗くなってきた夏の夕方の道を走り出したスポーツタイプの大きなバイクの後ろでリュウの背中にしがみついている穂香に、リュウが言った。


リュウ「もし空港に間に合ったら、搭乗ゲートをスタッフの人に聞いて全力ダッシュで行くんだよ?」


穂香「わかりました」


穂香はリュウの背中に顔を寄せて目を閉じた。


穂香(空港で最後に会ったらなんて言おうかな……?
行ってほしくないなんて、迷惑だよね……きっと。
留学って、昨日今日決まるもんじゃない……半年くらい前から準備してるんだろうし……。
バイバイも言わないで行っちゃうって、何か理由でもあるの……?)


言いたいこと。
聞きたいこと。
考えてみると色々と出てくる。


穂香(航太くんが夢に向かって頑張るんだから、笑って「行ってらっしゃい」って言わなきゃダメだよね?)


少し微笑んで心の中で言ってみる。どうしても穂香は本音を隠して、綺麗事を言おうと考えてしまう。


しかし次の瞬間には、違う意見が頭を過る。


穂香(本当は行ってほしくない。せっかく仲良くなれたのに……)


交互に本音の部分も出てきてしまう。
冷静になってみると、心に穴が空いたような感覚に陥る穂香。


リュウの背中にしがみついたまま、目を開けると、小さな声で呟く。


穂香「リュウさん……よろしくお願いします……航太くんにもう一度会わせてください……」


リュウ「何か言った?」


穂香「ななな……何でもないでーすっ!!」



(空港まで向かう道中の二人乗りのバイク。終了)






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