甘い罠、秘密にキス
「てか何食うよ」
「んー、ラーメンとか?」
桜佑の足がピタリと止まった。それに合わせて私も立ち止まると、思いっきり怪訝な目を向けられた。
「初デートでラーメン?」
「え、ダメ?私は久しぶりにチャーシューもりもりこってり豚骨ラーメン食べたかったけど…」
言ってすぐにハッとした。私ってば、また可愛げのない発言してる。しかも食べたいメニューがまたガッツリ系だからか、私を見下ろしている桜佑の顔が呆れ返っているのが分かる。
「初デートって言ったら、もっとこうイタリアンとか、とりあえず小洒落た店を選ぶもんだろ。それとも遠慮してんのか?」
「そういうわけじゃないけど…」
確かに初デートと言ったら気合いを入れて、もっとオシャレなお店に行くのかもしれないけど…そもそもこんな格好では高級なお店にも入れないし、相手が桜佑だと思うと、どうしても気軽に入れるお店が浮かんでしまう。
それにチャーシューもりもりこってり豚骨ラーメンが純粋に好きだし、ラーメン屋さんは気をつかわないから楽でいい。
だけど、どうやら桜佑は乗り気ではないらしい。
「…やっぱり桜佑が行きたいお店にしよう」
そう提案すると、桜佑は小さな溜息を吐いてから再び歩き出した。
「いや、ラーメンでいい」
「え、でも桜佑はラーメンの気分じゃないんでしょ?」
「気分じゃないというか…」
繋がっている手に力を込めた桜佑は、そのまま私を引き寄せてぐっと距離を縮める。覗き込むようにして顔を近付けてくると、険しい顔をした桜佑と目が合った。
「ほんと俺のこと意識してねえんだなーと思って」
「え?」
「浮かれてんの、俺だけかよ」
拗ねたようにブツブツ言い出す桜佑はまるで子供のようだ。大きな身体して女々しい発言をする目の前の男には、もはや違和感しかない。
浮かれてるって、初デートだから?桜佑ってそんなキャラだったんだ。なんか意外。
「…何笑ってんだよ」
「いや、なんか可愛いなと思って」
「は?」
普段とのギャップに、耐えきれず吹き出すように笑うと、桜佑は「なんか腹立つ」と睨んでくる。けれど繋いでいる手は決して離そうとしないから、そこもまた可愛いと思ってしまった。