甘い罠、秘密にキス
いつもよりあたたかい腕の中。「伊織」と名前を呼ばれ、ゆっくり顔を上げると、桜佑の唇が私の目の横やこめかみ、頬に触れた。
「桜佑…私は抱き締めるだけの予定だったんだけど…」
おかしいな。私が抱き締めるつもりだったのに、なぜか抱き締められる側になっている。
戸惑いながらも、次から次へと落ちてくるキスを受け入れていると、桜佑は悪戯っぽく笑いながら私の耳元で口を開いた。
「そんなの無理に決まってんだろ。せっかく伊織から誘ってくれたのに」
──確かにそうだけど、私から誘っただなんてわざわざ言わなくてもいいのに。
恥ずかしさのあまり俯こうとすれば、すかさず顎を掬われ制された。そして再び桜佑の唇が私の頬や耳、首筋を容赦なく刺激するから、思わず身を捩った。
けれど決して私の唇に触れようとしないのは、恐らく風邪をうつさないように気を使ってくれているから。その小さな優しさが嬉しくて、桜佑の背中に回している手に、そっと力を込めた。
「伊織?」
「…うん?」
熱を孕んだ瞳と至近距離で視線が重なる。
どきっと心臓が跳ねて、自然と脈が速くなる。
「さっきお前は、“努力の結果”だって言ったけど」
「……」
「俺の原動力は、全部お前だから」
「…え?」
いくら何でも、それは大袈裟でしょ。だって私は桜佑に何もしてあげられなかったどころか、避けてばかりいたというのに。
「…変な男」
思わず呟くと、ムッと眉を寄せ「うるせえ」と零した桜佑は、仕返しするかのように私の耳朶に噛み付くようなキスをした。