甘い罠、秘密にキス

「ちょ、と桜佑…やだ、やめて…」

「そういう声出すなよ。我慢出来なくなる」


だったらそういう事しないでよ。

そう訴えようとしたけれど、桜佑はやめるどころか今度は首筋に舌を這わせてくるから、思わず声が漏れそうになって、慌てて手で口を塞いだ。


「…やば、このまま押し倒したい」


桜佑はボソッと呟くと、本当に押し倒すつもりなのか私の方へ体重をかけてくる。そこでやっと我に返った私は「ダメ!」と桜佑の胸を強く押し返した。


「こんな時に何考えてんの」


服越しでも分かる。今日の桜佑はとにかく体温が高い。いつもより若干動きも鈍いし、顔色だって良くない。本当は座っているのもやっとなんだと思う。

危なかった、もう少しで流されるところだった。


「昨日もお預けを食らったのに、今日も我慢しろと?」

「当たり前でしょ。今日は大人しく寝てなさい」

「むしろやった方が元気になれそうな気がする。完全に伊織不足」

「そんなわけないでしょ。ていうか、そういう事を頻繁にするのは良くないと思う」

「…なんで?」

「なんでって…クセになるのは嫌だもん。なんかそれって、セフレみたいだし」


“セフレ”という言葉を口にした瞬間、桜佑の眉がピクリと動いた。


「セフレじゃなくて、婚約者だろ」

「…それはまだ…」

「正式に決まってないとか言うなよ。さっきお前が言ったんだからな。婚約してんだからこっちの意見も取り入れろって。あれって、俺を婚約者として認めたって意味じゃねえの?」

「……」

「あの言葉、ふつーに嬉しかったんだけど」


この男は、本当に頭がいいというかなんというか。こんな時でも頭の回転は早いから困る。それとも、私が墓穴を掘っているだけ?


「次、また俺のことセフレって言ったら」

「婚姻届を提出する…って言うんでしょ」


よく分かってんじゃん、さすが婚約者。と続けた桜佑は、結局私の唇に触れるだけのキスを落とした。

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