甘い罠、秘密にキス

「どうして、そう思ったんですか…?」


これでは肯定しているようなものなのに、口をついて出たのはこの言葉。
質問を質問で返すくらいにはテンパっていた。

そんな私に、井上さんは眉を顰めながら口を開く。


「佐倉さん、昨日社宅に来てましたよね。私見たんです。夕方、佐倉さんがある部屋(・・・・)から出ていくところを」


──しまった。桜佑の部屋に入る時は、周りに人がいないか確認したけど、帰りはあのボールペンを見て浮かれていたのか、何も考えずに部屋から出てしまった。

きっとその時に見られたのだ。完全にやらかした。


「私は入社した時からあの社宅に住んでいるので、住人は把握しています。だから佐倉さんがあそこに住んでいないのも知っているし、佐倉さんが出てきた部屋が日向リーダーの部屋だってこともすぐに分かりました」

「……」

「日向リーダーの彼女って、佐倉さんですよね」


捲し立てるように言葉を紡ぐ彼女に、思わず後ずさってしまう。

バカだ。桜佑に偉そうに注意しておきながら、私の軽率なミスで簡単にばれてしまった。

いやしかし、相手が大沢くんじゃないのが救いだ。この様子だと、恐らく他の人にはまだ言っていないし。

てことは、誤解を解くなら今しかない。


「…井上さん、これには理由が…」

「否定、しないんですね」

「え?いや、違う。違うよ。彼女ではないんだけど…」


寧ろそれを通り越して婚約してます。なんてさすがに言えないけど。
実は桜佑は幼なじみで、体調を崩していると聞いて差し入れを持って行ったんだと伝えれば、納得してくれるはず。


「実は日向リーダーとは…」

「彼女ではない(・・・・)ってどういう意味ですか」

「…え?」

「だったらセフレってことですか?!」

「…え??」


違う!もっと違う!!

< 149 / 309 >

この作品をシェア

pagetop