甘い罠、秘密にキス



「…はぁ」

「佐倉さん、お疲れですか?」


心配そうに尋ねてくる川瀬さんに「ちょっとね」と力なく返す。
すると女子力MAXの川瀬さんはポケットから飴を素早く取り出し「疲れた時は糖分ですよ」と差し出してくるから、その可愛さに女の私でも胸がきゅんとした。

私も川瀬さんくらい完璧な女性なら、井上さんにあんな言葉を投げかけられなくて済んだのだろうか。なんて考えながら「ありがとう」と飴を受け取る。

そこでふと視界に入ったのは、デスクの上に並べてある2本の栄養ドリンク。結局あのあと桜佑に声を掛ける気になれず、渡すことが出来ないままここに置いている。

井上さんに監視されているかもと思うと、変に接触出来なかった。後でこっそり桜佑のデスクに置いて、メッセージでも送っておこう。


それにしても面倒なことになってしまった。
次から次へと小さな問題が積み重なって、頭がパンクしそうだ。

藤さんの時に社内恋愛は懲りたはずなのに、また同じ過ちを繰り返しているなんて…。とりあえず何をどう解決していけばいいのか考えないと。


「今日はみなさんバタバタしてますね」


忙しないオフィスを眺めながら、川瀬さんがポツリと呟く。


「あー、なんかずっと前からマーケティング部と計画していたプロジェクトが、そろそろ動き出すらしいね」


だから桜佑は体調が万全ではないのに出社したのだと思う。ストイックなところは、昔から全く変わっていないようだ。

ていうか、マーケティング部ってことは井上さんも一緒なのかな。

…なんか、モヤモヤするな。

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