甘い罠、秘密にキス

「伊丹マネージャーと日向リーダー、今朝からずっと話し合いしてますもんね。私達もそのうち忙しくなるのかな…」

「……(なんでこんなモヤモヤすんのかな…もしかして胃もたれ?油っこいもの食べたっけ)」

「……佐倉さん?」

「あ、ごめんぼーっとしてた」


井上さんのことを考えると、なんだか胸がモヤモヤするというか、胃がムカムカするというか、とにかく落ち着かない。
なぜだか分からないけど、ふたりが並んでいるところを想像してそわそわしてしまう。


でも井上さんもさすがに仕事中にアプローチしたりしないよね…いや、むしろマーケティング部との打ち合わせで、ふたりの距離が急接近したりして。

しかもふたりは同じ社宅…めちゃくちゃ接点があるじゃん。


「うーん…」

「わ、佐倉さんが唸ってる。大丈夫です?早退した方がいいんじゃ…」

「ううん、大丈夫。ちょっと考え事してるだけだから…」


ふたりの距離が近付くほど、井上さんにとって私の存在は邪魔になるんだろうな。私と井上さんの間にもどんどん亀裂が出来て、仕事もやりづらくなるのかな。

うわあ…それはキツい。

だからと言って、井上さんに従うのも違う気がするし。やっぱり一刻も早く井上さんに本当のことを言うべきなんだろうなあ。

くそぅ。あの時、大沢くんさえ現れなければ…。


「はぁ」

「佐倉さん、重症だ」


深い溜息を吐きながらデスクに突っ伏すと、川瀬さんが優しく背中を撫でてくれた。そのぬくもりに安堵したのも束の間、


「日向リーダー」


ふと耳に入った声に、ぴくりと身体が反応した。

聞き間違いじゃない。この声は井上さんのものだ。

< 153 / 309 >

この作品をシェア

pagetop