甘い罠、秘密にキス
「てか、そんなこと言う暇があるなら早く寝なさいよ!」
『えー、もうちょい電話しねえ?』
「し(たいけどこれ以上話したら墓穴掘りそうだから今日はもうし)ない!てか今から井上さんのとこに行って手伝ってきてもいいんだよ?!大沢くんだけじゃ不安でしょ?!」
『いや、さすがにあいつも電球くらい交換できるだろ』
「だって大沢くんそんなに背高くないから、届かないかもしれないし」
『脚立持ってるから大丈夫だって』
「皆からしたら桜佑はスカイツリーみたいな存在なんだから、そういうのは率先して…」
『どんな例えだよ』
スカイツリーて。そう呟いて、ふっと吹き出すように笑った桜佑。その笑顔を想像して、また顔が熱くなった。だって絶対かっこい……って、そうじゃなくて!
「と、とにかく!なんだか今日は胃の調子も悪いし、私はもう寝るから!」
『…え?』
「桜佑もゆっくり休みなさいね!明日まだ熱が下がらないようだったら休むんだよ!じゃあおやすみ!」
『あ、おいこら待て…』
桜佑が何か言っている気がしたけれど、そのまま一方的に電話を切ってしまった。
スマホをベッドの上に放り投げ、シンと静まり返った部屋でテーブルに突っ伏して「最悪」と呟く。
“井上さんのところに行って”なんて、どうして言ってしまったんだろう。
元はと言えば桜佑が変なことを言うから、それを否定するのに必死になってしまったのだけれど…思ってもないこと、言うんじゃなかった。
彼女のところに行っていいなんて、微塵も思ってないくせに。
せっかく、もう少し電話しよって言ってくれたのに。
私ってほんと、何から何まで可愛くない。
「…明日謝ろう」
体調が悪い中わざわざ電話をしてくれた彼に向ける言葉じゃなかったと、今更反省している。
でも、今もう一度桜佑に連絡したところで、きっとまた空回りしてしまう。冷静に判断出来る自信もない。
(胃の調子が悪いのも本当だし、とりあえず今日は寝よ)
桜佑から“言われた通り井上さんのところに行って来た”とメッセージが届くのが怖くて、スマホは朝まで見ないことにした。
胃薬を飲もうと思っていたけれど、そのまま目を閉じていたら、いつの間にか寝落ちしていた。