甘い罠、秘密にキス




“胃は大丈夫か?”


朝起きてスマホを見ると、桜佑からメッセージが届いていた。それを見て、昨夜の電話の一部始終を思い出し、小さな溜息が漏れた。


“おはよう。昨日は急に電話切っちゃってごめん。胃は寝たら治りました”


胃のこと心配してくれてたなんて、桜佑優しいな。なんだかんだ思いやりのある人だから、あのあと井上さんのところにも行ったのかな…。

…だめだ、うじうじするなんて私らしくない。人助けをしに行ったのなら、それはいい事じゃないか。

昨日は井上さんに色々と言われてしまったから変に意識してしまうけど、普段井上さんとはあまり接点がないし、普通に生活していれば何事もなく過ごせるはず。

彼女のことを考えるのは、もうやめよう。


「平常心平常心」


軽くシャワーを浴びて、気持ちを落ち着かせながらシャツの袖に腕を通す。鏡を見ながら両手で頬っぺをパチンと叩いて気合いを入れると、いつもより少し早い時間に部屋を出た。







「──伊織」

「えっ、なんで…?」


駅の入口。壁に背を預けて立っていた人物に、思わず足を止めた。


「桜佑、どうしてここに?」

「お前に会いに来た」


早朝に、わざわざ?こんなことしなくても、会社に行けば会えるのに。

驚きのあまり目を見開きながら突っ立っていると、桜佑は私の目の前まで来て、おもむろに何かを差し出してきた。


「これを渡そうと思って」

「え?」


視線を落とすと、桜佑の手の上には小さな箱が乗っていた。それをおずおずと受け取り、その箱をよく見てみると『胃の痛みに効く!!』という大きな文字が視界に飛び込んできた。

恐らくこれは胃薬だ。ポロッと胃の調子が悪いなんて言ってしまったから、わざわざ持ってきてくれたのだ。

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