甘い罠、秘密にキス
桜佑の手はあんなにも冷たかったのに、唇は驚くほどあたたかかった。
触れるだけの優しいキスだけど、その熱で溶けてしまいそうになるのはどうしてだろう。まるで心が待ちわびていたかのように、ここが外だということを忘れて受け入れてしまう。
貰った薬はまだ飲んでいないはずなのに、桜佑の熱でモヤモヤしていたものがなくなってく。
もしかすると私の身体は、ずっと桜佑の体温を求めていたのかもしれない。
「…桜佑、ここ外だから」
唇が離れたあと、名残惜しい気持ちとは反対に、口から出る言葉は冷静だった。いくら周りに人がいないと言っても、やはり外でのキスは少し抵抗があるからだ。
「なんか毎日会って、毎日こういう事してる気がすんのに、全然足んねえな」
「……」
「離れてた期間が長すぎたせいだろうな。伊織が足りない」
伸びてきた手が私の腰を抱き寄せる。「伊織」と耳元で名前を呼ぶ男は、まだ熱があるんじゃないかってくらい甘ったるい声を放ち、私の肩に顔を埋める。
桜佑が日に日に甘くなっている気がするけど、気のせいなのだろうか。
「ねぇ桜佑。別にこうしてくっつくためにここに来たわけじゃ…」
「だったら何でだよ」
「周りの視線が気になって仕方なかったんだよ。通行人が目をハートにして桜佑のこと見てたでしょ?桜佑はちょっと目立ち過ぎなんだって」
「…え、あれはお前のこと見てたんじゃねえの?」
「そんなわけないじゃん。こっち見てるのは女の人ばっかりだったし、桜佑に決まって…」
「いやお前、自分がイケメンキャラだってこと忘れてんだろ」
朝早いのもあり、確かにまだ頭は働かないけど、それくらいのことは分かる。あれは絶対桜佑を見てた。
だって、その人たちの気持ちが──…
「あ、もしかしてお前も、そいつらと同じで俺に見惚れてたとか?」
「……え、」
「伊織も俺のこと、かっこいいと思ってんだろ」
「…自惚れ過ぎでしょ」
そうだよ。その通りだよ。
最近私の瞳に映る桜佑がどんどんかっこよくなっていくから、困ってるんだよ。