甘い罠、秘密にキス
「ねぇ桜佑…昨日、あのあとすぐに寝た?」
桜佑が私の肩に顔を埋めているのをいいことに、気になっていたことを遠回しに聞いてみることにした。
桜佑に抱きしめられている今なら、もし“井上さんのところへ行った”と返されても、受け止められる気がしたから。
「普通に飯食ったあと風呂入って寝たけど…なんで?」
「えっと…あっという間に体調が回復したみたいだから、よく眠れたのかなって思って」
「…ふうん」
──そっか、井上さんのところへは行かなかったのか。
心の中でそう呟いた瞬間、一気に肩の力が抜けた。その答えが、こんなにも嬉しいとは思わなかった。
勇気を出して聞いてよかった──と、安堵したのも束の間、体を起こした桜佑が眉間に皺を寄せながら探るような視線を向けてきて、思わずごくりと唾を飲み込んだ。
咄嗟に目を逸らすと「何か隠してる?」と鋭いツッコミを入れられ、ドキッと心臓が跳ねた。
「え、な、なんで?」
「なんか様子が変なんだよな。いつもの勢いがないというか」
「そう?あ、胃が…胃の調子が悪いせいかも」
「………なるほど」
そんな酷いなら早く言えよ。そう続けた桜佑は、再び私の背中に手を回すと、そのまま優しく抱き寄せた。
「“寝たら治った”ってメッセージ送ってきたの、やっぱ嘘だったか」
「うん…ごめん。心配かけたくなくて」
まただ。桜佑の匂いに包まれると、落ち着くけど落ち着かない。心臓が激しく波打って、胸の奥が苦しくなる。
でも離れたくないと思ってしまうのは、どうしてなんだろう。
さっき桜佑に様子が変だと言われたけれど、自分でもそう思う。最近の私は、どこかおかしい。
「そろそろ行くか?てか、立ってるのキツいだろ」
「ううん、大丈夫。だからもう少しだけ…」
…もう少しだけ、一緒にいたい。