甘い罠、秘密にキス
やっぱり周りから見てもあのふたりの距離感はおかしいらしい。
考え過ぎなだけかと思っていたけれど、そうじゃなかったんだ。
「煮区厚さんは…あのふたり、付き合っているように見えますか?」
「うーん、そうね…ふたりとも仕事熱心なところは似ているし、少し身長差が激しいけどお互い自分にないものを求めているからなのかもしれないし、息もピッタリみたいだからお似合いといえばお似合いよね。それにあのふたりって社宅に住んでるでしょ?ひとつ屋根の下で恋するなんて、なんだかロマンチックじゃない。しかも井上さん、ああ見えておっちょこちょいなところがあるから、放っておけない女というか、普段とのギャップにぐっと心を掴まれる男はいっぱいいると思うわ。でも日向リーダーって支社に来てまだ間もないでしょ?この短期間であの色男を捕まえるのはなかなか難しいと思うのよね。だから“彼女”っていうのは本社にいた時に出来た人じゃないかとも思うのよ。うーん、ますます謎よね。そういうミステリアスなところもまたいいんだけど。はぁ、眼福」
「(ものすごい分析力…!)」
答えになっているような、なっていないような…?
煮区厚さんは息付く暇もなく喋り続けて疲れたのか、手に持っていたお饅頭を「佐倉さんもどうぞ」と突然私の手の平に乗せ、もうひとつのお饅頭をポケットから取り出すと、その場でフィルムを剥がして口に放り込んだ。
「甘いわ…」
それはお饅頭が?それとも、あのふたりが?
そうしている間も井上さんは上目遣いで桜佑に笑いかける。その笑顔はまるで恋する乙女で、なぜか焦りを覚えてしまう。
今までも、井上さんだけでなく他の女子社員が桜佑に話しかけるところは何度も見てきた。だから別に、今に始まった話でもないのに、どうしてこんなにも意識してしまうのだろう。