甘い罠、秘密にキス
胸がチクチクする。元気になったと思ったのに、また調子が悪くなってきた。
しかも彼女を見れば見るほど、あの小柄なところも、胸が大きいところも、全部が羨ましく思えてくる。
可愛らしい子を見て“羨ましい”と思ったことは、今まで数え切れないほどあるけれど、ここまで強く思ったのはもしかしたら初めてかもしれない。
「きゃ、ごめんなさい。つまずいてしまいました」
視界に入っていた井上さんの身体が、突如傾いた。どうやら何かにつまずいたらしく、転倒しかけた彼女を素早く支えたのは、やっぱり桜佑だった。
「ほら見て、井上さんって意外とおっちょこちょいでしょ」
煮区厚さんは冷静にふたりを見ているけれど、私は桜佑の手が井上さんの体に触れた瞬間「あ」と声が出そうになって、慌ててお饅頭を口に突っ込んだ。
「あらやだ豪快。やっぱり佐倉さんって男前ね」
お饅頭を丸ごと口に含んだ私を見て、煮区厚さんはクスクス笑っている。
そんな彼女を余所に、私は口の中の水分が一気に奪われて少し苦しかった。でもそれより胸の奥の方がもっと苦しかった。
「日向リーダーありがとうございます。助かりました」
てへへ、と笑う井上さんは、意外と甘え上手なのか、その仕草は女の私から見ても可愛い。
けれど桜佑は「いえ、気をつけてくださいね」とクールに返すと、すぐに彼女から手を離した。
これは事故。それなのに、胸の奥がズキズキと痛む。
いつも私に触れる手が、井上さんに触れた。それがどうしようもなく嫌だった。