甘い罠、秘密にキス
「前会った時は毎日が地獄って言ってた気がするけど、やっぱ君ら仲良しじゃん」
「あー…そんなこと言いましたっけ?」
「言ってた言ってた。俺が仲良いねって言ったら、全力で否定してた」
うん、確かに言った。あの時はまだ酔っていなかったから、ちゃんと覚えてる。
だってあの頃は本当に仲良くなかったし、毎日が地獄だと思ってた。
決して嘘はついていないけど、今は仲良しどころか実はあの後色々あって婚約してます、なんてさすがに恥ずかしくて言えなくて、あははーと笑って誤魔化していると、皇さんはにんまりと笑顔を貼り付けたまま「あの日は無事に帰れたの?」と尋ねてきた。
「結構酔ってたでしょ。日向が伊織ちゃんのこと支えながら店から出ていくとこ見たから」
「……」
「あいつちゃんと伊織ちゃん家に送った?自宅に連れ帰って食べられたりしてないよな」
「それは…はい、大丈夫でした」
食べられるどころか、汚物の処理だけでなく汚れた服の洗濯までしていただきましたけれどもね。ほんと、いま思い出しても恥ずかしい。
…あれ、ていうか今、私のこと“伊織ちゃん”って言った?あの日、名前を教えた記憶がないのにどうして…。
あ、もしかしてあれか。桜佑が“女装コンテスト優勝”の黒歴史を話した時に、名前も聞いてたのかも。皇さんの記憶力、恐るべし。
それにしても、私ってイメージ最悪じゃないか。黒歴史だったり、酔い潰れてたり…皇さんに、絶対変な人間だと思われてる。
「…なんか恥ずかしいところばっかり見せちゃってすみません」
「え?」
「黒歴史だけでなく、酔っ払った姿まで…桜佑から他にも変な話聞かされてないですか?あの男のことだから、余計なことばっか言ってんだろうな…」
桜佑のことだ。きっとろくでもない噂話を流しているに違いない。最近の桜佑は優しくなったと思うけど、昔はほんと酷いやつだったし。
「黒歴史?あー、こないだ言ってたやつか。なんだっけ、コンテストがどうとか…」
「…あれ?その話、皇さんは昔から知ってたんですよね?」
「ううん、俺はこないだ初めて聞いたよ」
「……ん?」
え、どういうこと?話が全く噛み合わないんだけど。