甘い罠、秘密にキス

「でもこないだ会った時、噂がどうのこうのって話をしたはずじゃ…」


“もしかして、この子が噂の?”

あの日皇さんは、私の顔を見て確かにそう言った。それに対して桜佑が女装コンテストの話を出したから、てっきりその“噂”というのはコンテストのことだと思っていたけれど、どうやら違うらしい。

だとしたら“噂”ってなに?ここにきて話が全然読めないんだけど。


「あぁ、あれね、うん、まぁ色々あんのよ。いやーほんと日向っておもろ」

「…?」


皇さんはひとりで勝手に解釈して、ひとりで楽しそうにクスクス笑っている。

訳が分からずぽかんとしていると、ひとしきり笑った皇さんは、頬杖を付きながら静かに口を開いた。


「伊織ちゃん、いま日向とはどんな関係?」

「えっ」

「もしかして付き合ってる?」


唐突に投げかけられ、思わず言葉に詰まる。

一瞬、秘密にしておいた方がいいのかなって思ったけれど、別に皇さんは会社とは関係ないし、秘密にする理由もないわけで。

だけど桜佑と仲が良いのなら、桜佑の口から報告した方がいいのかな。ていうか、桜佑から何も聞いていないのだろうか。


「否定しないってことは、付き合ってんだ?」

「…えっと…まぁ、そんな感じではあります」


とりあえず婚約のことは内緒にしておきながらも、ぎこちなく首を縦に振ると、皇さんは「おお、すげえ。日向くんさすがだねぇ」と独り言のように零しながらへらりと笑った。


「桜佑から何も聞いてないですか?」

「なーんにも聞いてないよ。酷いよな、こっちは散々話を聞いてやったのに、きちんと報告しないなんて」

「話…?」

「知りたい?言ったら日向に怒られそうだけど、でも付き合ってんなら別に問題なさそうだし」


てか、報告しなかった罰として、ぜーんチクってやろうかな。

そう続けた皇さんは、横目で私を捉えながら、ニヤリと悪い笑顔を浮かべた。

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