甘い罠、秘密にキス

「知りたいです」


何となく、私の知らない桜佑の話が聞ける気がした。思わず身を乗り出すようにして「教えてください」と続けると、皇さんは悩むことなく「いいよ~」と口角を上げた。


「まず、俺らがこの店で知り合ったっていうのは、この前会った時に話したと思うんだけど、あれは確か20歳か21歳の時だったかなぁ」

「結構長い付き合いなんですね」

「そうそう、地味にね。伊織ちゃんはその頃の日向のこと、全然知らないんだよね?」

「あ、はい…その頃のことは、全く」


その時期は、私が桜佑から逃げていた数年間にピッタリ当てはまるから、桜佑がどんな生活を送っていたのかなんて知らない。

でも、どうしてその事を皇さんが知っているのだろう。
ふと疑問に思ったけれど、とりあえず皇さんの話を聞くため、静かに耳を傾ける。


「あの頃の日向、勉強やバイトで毎日忙しそうで、しかも一切手を抜かない完璧主義で、目が物凄いギラギラしてて、それはそれは近寄り難い存在で…」


気さくな雰囲気を漂わせる皇さんでも、近寄り難いとか思ったりするんだ。まぁそれだけ、桜佑が怖いオーラを放っていたということなんだろうけど。


「でも、時折めちゃくちゃ寂しそうな顔すんの。捨てられた子犬みたいな。それ見て、なんかもう俺の中の母性が芽生えちゃって」

「捨てられた子犬…」

「だから俺、思わず声掛けちゃったんだよねえ。そっから仲良くなったんだけど、その寂しい顔の原因を知ってから、日向のことがもっと愛しくなったちゃったわけよ」

「その原因って…?」

「本当は誰にも内緒の話なんだけど、伊織ちゃんには特別に教えちゃう。なんかね、初恋の相手に嫌われたというか、逃げられたというか、まぁそんな感じだったらしくてさ、もう何年も会ってない、会いたいって、酔った時に寂しそうな顔しながらたまーに弱音吐くんだよ。いやあー、あの時の日向、ほんと可愛かったなあ。伊織ちゃんにも見せてあげたかった」


初恋の相手…逃げられた…って、もしかして…。


「小さい頃から好きで、ずっと忘れられない相手なんだって。あんな顔して一途とか、狡いよなぁ」

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