甘い罠、秘密にキス
恐る恐る振り返ると、そこにいたのは案の定桜佑だった。平静を装いながら「お疲れ様」と声を掛けるも、桜佑が冷ややかな目で私達を見下ろしてくるから、背中に冷や汗が伝う。
話に夢中になってて、桜佑がお店に入ってきたことに全く気が付かなかった。今の会話、全部聞いてたわけじゃないよね?
「なんかふたりですげー盛り上がってたみたいだけど」
「当たり前じゃん。こんな綺麗な子と会話出来るんだもん、俺のテンション爆上げっすよ。あ、もしかして妬いてるー?今日の伊織ちゃん、一段と綺麗だもんな」
「……皇、お前余計なこと言ってねえだろうな」
「余計なことって、例えば?」
「……」
桜佑の反応を見る限り、私達の会話は殆ど聞かれていなかったみたいだ。
「余計なことって言ったら余計なことだよ」と、若干焦っているのか小学生みたいな口調で言い返した桜佑は、探るような目で皇さんを見ている。
「心外だなぁ。この俺が余計なこと言う人間に見える?」
「見えるからこうやって聞いてんだろ」
「うわー酷いやつ。心配しなくてもお前の悪口は言ってねえから大丈夫だって。ね、伊織ちゃん」
皇さんにニコッと微笑みかけられ、咄嗟にコクリと頷いた。
でも別に嘘はついてない。本当に悪口は言っていないから。むしろとてもいい話が聞けたと思っている。
本人の口から出る言葉も大事だけど、周りの声も同じくらい大切なんだと気付かされた。
私は今日、皇さんが秘密の話を聞かせてくれたお陰で、桜佑の私に対する気持ちの大きさを知ることが出来たから。
「てかこんな綺麗な子をひとりで待たせたらダメじゃん。俺がいなかったら他の男に声掛けられてたぞ、絶対」
「分かってる。これでも急いで来たんだよ」
伊織、待たせてごめん。そう言いながら私を視界に捉えた桜佑。
目が合った瞬間、胸の奥がきゅっと苦しくなって、心臓が激しく波打った。