甘い罠、秘密にキス
「全然待ってないから大丈夫。むしろ早かったね。片付けは無事に済んだの?」
「うん、案外早く終わったから助かった」
「俺的にはもう少しゆっくり来てくれても良かったのになー。伊織ちゃんともっとお喋りしたかったし」
「あ?お前は今すぐそこをどけよ」
皇さんは「こえー」と零しながらクスクス笑うと「伊織ちゃんまたゆっくり話そうねと」と渋々立ち上がった。すかさずその席に腰を下ろした桜佑は「つか、なに馴れ馴れしく名前で呼んでんだよ」と皇さんを横目で睨む。
「妬くな妬くな。ちっせー男は嫌われるぞ。まぁでも、日向が幸せそうで俺は安心したよ」
「……」
「逃げられないように、ちゃんと大事にするんだぞ」
「…お前なぁ」
皇さんがわざと煽るような発言をするから、私の方がヒヤヒヤしてしまう。さっきの会話は秘密にしろって言ったくせに、皇さんがバラしそうな勢いだ。
「じゃあね、ごゆっくりー」
手をひらひらと振りながら踵を返す皇さんにぺこっと会釈していると、隣から「伊織」と声をかけられゆっくりと視線を桜佑に向けた。
皇さんと話していた時の声とはまるで違う。上司の時の声ともまた違う、その穏やかな声音に、思わずきゅんと心臓が跳ねる。
「あいつと何を話してた?」
「何って…普通に世間話を…」
「口説かれてたわけじゃねえよな」
「あ、うん。それは全然」
怪訝な目を向けられ、思わず顔が引き攣る。
だけど桜佑の目を見る度、皇さんから聞いた話が脳裏を過ぎるから、油断すると頬が緩みそうになる。