甘い罠、秘密にキス
そもそも桜佑とまともに会話するのは2週間ぶりだった。職場で必要最低限の会話はしていたけれど、どれも事務的なものばかりだったし、桜佑は出張があったりしてゆっくり会う時間が取れなかったから。
やっと会えたと思ったら、桜佑の見た目がいつもよりかっこいいし、皇さんからあんな話聞いちゃうし…。しかもこの店は、私達の距離を縮めたきっかけを作った場所でもある。
だから変に意識しちゃって、桜佑の顔がまともに見れない。
カウンター席で本当に良かった。なるべく前を向いておこう。
「てか今日のお前、いつもと違い過ぎてなんか調子狂うな」
「そうでしょ。まぁこれは120%川瀬さんの力だから、自分の力ではここまで…」
「いや、お前は元が綺麗だから」
おっふ…。いま“綺麗”なんて言われたら、またさっきの会話を思い出しちゃう。
“誰よりも綺麗な子だって言ってたよ。勿論見た目もそうなんだけど、心が綺麗なんだって”
皇さんの言葉を、全て信じているわけではないけれど。話題がタイムリー過ぎて、さすがに反応に困る。
そんな私を余所に、桜佑は「やっぱ服装でイメージって変わるもんだな」と独り言のように呟いている。
「てか会社の人間に口説かれてねえの?」
「全然。さすがに視線は感じたけど、そういうのでは…」
「さっき片付けしてる時も、お前の話をしてる奴らがいた。今日は何もなかったかもしれないけど、後日会社で声を掛けられる可能性も…」
「いつもとのギャップがあり過ぎるから、みんな噂してるだけだって。桜佑はさっきから気にし過ぎだよ。またいつも通り出社したら、みんなも今日のことなんか忘れて…」
「焦るに決まってんだろ。だから、俺だけが知ってればいいって言ったのに…」
なにやらぶつぶつと尻すぼみになりながら呟いた桜佑は、じろりと私を横目で捉える。
ふいに視線が重なり思わず息を呑むと、突然コートのポケットを漁り始めた桜佑は、そこから何かを取り出し、それを私の前にそっと置いた。