甘い罠、秘密にキス

桜佑って、本当に私のことをよく見てくれている。そのさりげない気遣いに心を奪われてしまう。

ボールペンを貰った時も勿論嬉しかったけど。あの時より遥かに喜びが多いのは、一体なぜ?


「ありがとう…大事にする」


ピアスにそっと触れながら、上目がちに桜佑を捉える。「ん」と軽く返事をしながら目を細める男から、目が離せなくなっている自分がいた。

私を見つめる優しい目も、私の前だけで放つその甘い声も、グラスを持つ骨ばった細くて長い指も、全部が愛しく思える。

──帰りたくない。

綺麗な横顔を見つめながら、心の中で強く懇願した。


「桜佑」


今日はあまりお酒を飲んでいないはずのに、驚くほど顔が熱い。心臓がずっとドキドキしてて、胸の奥が苦しい。

きっと、これは全部桜佑のせいだ。


「どうした?」

「……」


この距離がもどかしい。なんて言ったら、困るだろうか。

桜佑に触れたい、もっと私を桜佑の色に染めてほしい。そう伝えたら、桜佑は今すぐ私を連れ帰ってくれる?


「…このあと、予定あるの?」

「予定はないけど…」

「桜佑の部屋に帰りたいって言ったら…ダメかな」


言った直後、ごくりと唾を飲み込んだ。小さく紡いだ声は、桜佑の耳に届いただろうかと不安になった。


「…それ、自分でどういう意味か分かって言ってんの?」


私の声は、桜佑にちゃんと届いていたらしい。かなり大胆な発言をしてしまっただけに、急に恥ずかしくなって変な汗が背中を伝った。

そんな私に、桜佑は穏やかな声で問いかけてくる。


「俺に何されるか、ちゃんと理解出来てる?」


桜佑を直視出来なくて、俯きながらもこくりと頷いた。


「なぁ、まさか酔ってるわけじゃないよな。なんかもう普通にやばいんだけど」

「……」

「伊織、今すぐ帰ろうか」


桜佑の手が、私の腰を優しく撫でた。それだけでぞくりと身体が反応して、全身に熱を帯びていく。

今すぐふたりきりになりたい。その手に触れて欲しい。桜佑の熱を、肌で感じたい。


こんなことを考えてしまう理由なんて、ひとつしかない。

もう認めざるを得ない。漸く自分の気持ちに素直になれた。


──私、桜佑が好きだ。

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