甘い罠、秘密にキス




数日経てば慣れる?ぜんっぜんそんなことないんだけど。

むしろ好きが加速してる気がする。平日はなかなか会えないから、余計に桜佑を目で追っちゃう。

恋愛のスペシャリストであろう川瀬さんに相談したい…でも出来ない…あーーーしんどい。


「佐倉さんどうしました?」

「…ああ、大沢くん」


机に突っ伏している私に声を掛けてきたのは、スピーカー男で有名な大沢くんだった。ゆるっとした空気を纏った彼は、覗き込むように私と目を合わすと「かなり疲れてるみたいっすね」と眉を下げる。


「うん、ちょっとね…少し考え事があって」

「あー、いま佐倉さん大変そうですもんね」

「……え?」


待って大沢くん、それはどういう意味?

大沢くんの含みを持たせた言い方に、思わず反応してしまう。

それは“明らかに恋してる顔してて大変そうですね”ってこと?それとも“遅すぎる初恋を拗らせて大変そうですね”ってこと?

私ってば、そんなに態度に出てる?


「悩んでるようなら、俺が話聞きましょうか」

「え、いや…」


大沢くんに桜佑の相談?!無理無理。そんなのすぐに周りに言いふらされるのがオチじゃない。


「人気者は辛いっすね」

「……」


確かに、桜佑のような人気者を好きになってしまったら、これから先ずっと悩みは尽きないだろう。きっとライバルは多いし、釣り合わないって言われる可能性だってあるし…。

分かってたことだけど、改めて言われると結構クるな。てか、まだ告白も出来てないのに脅さないでほしい。


「あ、そうだ。来週のA社訪問、確か佐倉さん一緒に行ってくれるんですよね?」

「うん。その予定だけど…」


大沢くんだけじゃ不安だからって、私も一緒に行くようにと桜佑に頼まれた。
桜佑が私を頼ってくれたことが嬉しくて、あの時は思わずニヤけちゃったな……って、そうじゃなくて!


「その日、ランチ一緒に行きません?勿論、俺の奢りで」

「ランチはOKだけど、別に奢ってくれなくていいよ。むしろ私が…」

「いやー、ここは男の俺がね。ちなみに佐倉さんの好きな食べ物って何です?周りの人も知りたがってて…」

「周りの人…?えっと、そうだな…好きなのはラーメンとか。見た目通り、可愛げないでしょ。しかも大盛りも余裕で食べちゃうし…」

「佐倉さんはそういうところがいいですよね」


なにそれ、慰めてくれてる?下げたり上げたり、なんなのこの人は。
口の軽い男は、こういう台詞もサラッと言っちゃうってわけね。今は大沢くんのそういうところが、少し羨ましいよ。

だけど…


「大沢くん、お願いだから(私が恋してることは)誰にも言わないでね」

「(佐倉さんがモテてる事は)もうみんな知ってると思いますよ」


………うそでしょ?

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