甘い罠、秘密にキス
「いやーそれにしても、もっと可愛げのある食べ物を言えばよかったなーって後悔してます」
あははーと笑いながら、心の中で「だからそんな話がしたいわけじゃないでしょ!」と自分に訴える。
分かってる、分かってるんだけど桜佑の顔を見たら緊張して普通に出来ない。噂話を知っているかもしれないと思うと、余計にぎこちなくなってしまう。
「だから男扱いされるんだろってね。女性らしくなるのが目標なのに…」
「……」
「川瀬さんがいなきゃ、ヘアアレンジもメイクも出来ないし…目標は遠いなぁ」
でも、最近はだいぶ変われたと自覚している。まだまだ完璧には程遠いけど、ここまでこれたのは桜佑のお陰だ。
“俺がお前を女にしてやる”
どこか乱暴で、桜佑らしい言葉。
あの時は本気で、この男は何を言っているのだろうと思ったけど、あの日から確実に私は変わってきている。
このピアスも、そしてボールペンも桜佑がくれた物だし、桜佑のお陰でトラウマも克服出来た。おまけに恋までしちゃって、桜佑と再会する前の私とは全然違う。
桜佑が背中を押してくれるから前に進める。私にとって桜佑の存在は、本当に大きい。
「あ、でも今週に入ってから、不思議なことに総務部の課長が女として接してくれるようになったんですよ。もう何年も男扱いだったのに、ビックリですよね。それもこれも全部…」
「…別にお前は、男前のままで良かった気がするけどな」
「………え?」
思っていた反応と違った。課長が変わったのも桜佑のお陰だから、一緒に喜んでくれると思ったのに。桜佑は笑うどころか、その目はどこか寂しげだった。