甘い罠、秘密にキス
「佐倉さん、元気ないですね。何かありました?もしや変な男に言い寄られているのでは…」
「あはは、井上さんってたまにおかしなこと言いますよね。言い寄られるなんて、そんなわけないじゃないですか」
「そうですか?最近佐倉さんの人気が凄いことになってますし、全然ありえる話だと思いますけど…あ、もしかして日向リーダーですか?彼に何かされました?だとしたら、私が潰しに行きます」
「潰すって…何かされたわけではないので、大丈夫ですよ。ただ少し、最近あまりいい事がなくて」
桜佑が関わっていることには違いないけれど、何かされたというよりは、勝手に落ちてる感じだ。
変な噂は流れてるし、無駄に桜佑を避けてしまうし、それに加え支えてあげることも出来ないし、桜佑の言葉を未だ引きずってるし。
“別にお前は、男前のままで良かった気がするけどな”
桜佑にとっては、何気ない言葉だったんだろうけど。何故か胸の奥で、小さなしこりになってずっと残っている。
「井上さん」
「はい何でしょう」
未だ飴を食べることなく、大事そうに両手で包み込んでいる井上さんに声を掛けると、彼女は覗き込むようにして私と目を合わせる。
「…私って、やっぱ男っぽいほうが似合いますかね」
「…え?」
「元々自分に自信なんかないけど、最近は前よりもっとなくなってしまったというか…自分がよく分からなくなってきました」
こぼれ落ちるように出た愚痴に、井上さんが目を丸くする。こんな話を聞かされてもきっと迷惑なだけなのに、耐えきれず口にしてしまった。
「やっぱ何でもないです。急にすみません」
言ったそばから後悔して、咄嗟に謝罪した。笑いながら誤魔化してみるも、井上さんは表情ひとつ変えずに私を見つめている。
「男っぽい…確かに佐倉さんにはそういうイメージがありますし、私もはじめはそういうところに惹かれました。同じ理由でファンになったメンバーもたくさんいると思います。だけど、佐倉さんの本当の良さはそこじゃないです」
「……」
「佐倉さんの飾らない性格に、周りは自然と心が惹かれ、癒されてます。謙虚で思いやりがあって、見た目だけでなく心も綺麗です。そういうところもひっくるめて、つい男前って言ってしまいますけど…それは決して男っぽいって意味じゃないですよ」