甘い罠、秘密にキス
「佐倉さんがご自身のどこに自信を失っているのかは分かりませんが、周りの人達もどんどん佐倉さんの魅力に気付き始めています。なので佐倉さんは何も気にせず、ありのままでいたらいいのではないのでしょうか。もっと自信を持ってください」
「井上さん…」
「まぁ確かに、服装によってはその辺の男より断然イケメンですし、佐倉さんの彼女になれるのなら全力でなりたいですけどね。だから私は、彼を婚約者の立場から引きずり下ろしてやりたい気持ちでいっぱいです」
佐倉さんに選ばれたあの方が羨ましくてたまりません!鼻息を荒くして桜佑の愚痴を零す井上さんを見て、思わず笑みが零れた。
そう言っておきながらも、私達を認めてくれているから井上さんは良い人だ。私達の秘密をバラさないだけでもありがたい事なのに、こうして相談にも乗ってくれるし、私は井上さんの存在にかなり救われている。
「井上さんいつもありがとうございます。私、井上さんと友達になれて良かったです」
「とも…だち…?」
ポカンとする井上さんを見て、ハッとした。もしかして、私が勝手に友達だと思い込んでいただけで、井上さんにとっては違ったのかも。
「あの、井上さん私…」
「私を…佐倉さんの友人にしてくれるのですか…?」
「えっと…勝手にそうだと思ってました。すみません、私前のめりでしたね」
「とんでもない!この私を友人として認めていただけるなんて大変光栄です!これからもファン兼友人としてよろしくお願いいたします!」
涙目で喜んでくれる井上さんを見ているとこっちまで嬉しくなった。友達の証に飴をもうひとつプレゼントすると、やはり井上さんはその飴を食べることなく、高く掲げて拝むように「ありがとうございます」と呟いた。
私って、周りの人達に本当にかなり恵まれている。もしかしたら桜佑は、私は素敵な人達に囲まれているのだから、焦って変わろうとしなくていいんだよってことが言いたかったのかもしれない。
そう解釈した途端、なんだか少し心が軽くなった気がした。
「そういえば井上さん…あの噂知ってます?」
「あの噂…?」
「だからその…私に関する噂です」
「あ、はい勿論知ってますよ!あれですよね、佐倉さんが…」
「い、言わなくて大丈夫です恥ずかしいから」
ひいいい。やっぱり知ってるんだ。
てことは、絶対桜佑の耳にも入ってるやつだよね…。
目がハートマークにならないように、当分眉間に皺を寄せてなきゃいけないやつだ。…頑張ろう。