甘い罠、秘密にキス

「佐倉さん、ほんとやばかった〜」


バレる前に逃げようとした時だった。大沢くんが溜息混じりに放った言葉に、思わず反応してしまった私は、息を殺して聞き耳を立てる。


「ラーメン大盛りをペロッと完食すんの。見てて全然飽きなかったなぁ」

「へえー。ちなみに何ラーメンですか?」

「チャーシューもりもりこってり豚骨ラーメン。このチョイスがまたいいだろ」

「いいですね。飾らない感じが」


おい大沢。何でもかんでも喋るんじゃないよ。そして山根くんもいちいち反応しなくていいから。なんだか恥ずかしくなってくるじゃない。


「佐倉さん、最近益々噂になってますよね」


うわっ…。
山根くんの口から続けて出た言葉に、ドキッと心臓が跳ねた。まさか桜佑がいる前でその話題を出されると思っていなかったから、血の気がサーッと引いていく。

そんな中、桜佑はふたりの会話を聞いているのかいないのか、今のところ口を開いていない。
お願いだからそこでストップして、他の話題に──…


「そうそう。日向リーダーもその噂のこと、勿論知ってますよね?」


大沢のばか!なんで言っちゃうの!

話題が変わるどころか、一番嫌な方向に進んでしまい、危うく声が出そうになった。このまま飛び出して大沢を引っ捕まえてやろうかと思ったけれど、何とか耐える。

もしかしたら桜佑は噂のことを知らないかもしれない。それか私の気持ちを考えて、話を逸らしてくれるかもしれない。

そんな淡い期待を抱いて、桜佑の言葉を待つ。


「うん、知ってる」


───で す よ ね。

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