甘い罠、秘密にキス

「桜佑って、他のことは何でも器用にこなすのに、私のことになると不器用になるんだね」

「…うるせえよ」


じろりと鋭い視線が落ちてくる。だけどその目は、どこかあたたかい。

もしかすると昔の桜佑も、今みたいな優しい目で私のことを見てくれていたのかも。不器用ながらも、ずっと私を見守ってくれていたに違いない。


「桜佑、これからは私がいっぱい好きって伝えるから」


今まで与えられなかった分も、全部。一生分の愛を桜佑に伝えたい。

今日一日で、守られるばかりじゃなく私が隣で桜佑を支えたいという気持ちが、より強くなった。


「伊織」

「うん?」

「このあと、お前も俺の部屋に帰るんだよな?」


甘えるように尋ねられ、迷うことなくこくんと頷く。


「だって、私の手料理食べるんでしょ?」

「そうだった。何作ってくれんの?」

「………カレーかな」

「最高」


咄嗟に思いついた、超絶簡単なメニュー。それなのに桜佑は、嬉しそうに屈託のない笑みを浮かべるから、その不意打ちの攻撃にキュンと胸がときめいてしまった。







「はあぁぁ」


倒れ込むようにベッドにダイブした私は、そのまま布団にくるまって身体をあたためる。

遅れてやってきた桜佑が私の隣に寝転がると、私の頭の下に腕を通し、腕枕の状態で私の身体をそっと引き寄せた。

途端に桜佑の匂いが鼻腔をくすぐり、安心感に包まれる。


「なんだか今日は疲れちゃった。お母さんに彼氏を紹介するなんて初めてのことだったから、何気に気を張ってたのかも」

「彼氏じゃなくて婚約者な」


細かい指摘を受け「あ、そうか」と零す。そんな私の頭を撫でながら「料理も頑張ったもんな」と桜佑は目を細める。


「まぁ結局桜佑にも手伝ってもらいましたけどね」

「まだ危なっかしいからな」

「じゃがいもとニンジンも危うく半分生のままで出すところだったし」

「まぁ最終的に成功したから問題ない」

「料理教室通おうかな…」

「え、一緒にいる時間減るの嫌だ」


“嫌だ”って、ちょっと可愛すぎないですか桜佑さん。

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