甘い罠、秘密にキス
「伊織」
顎を掬われ、影が落ちる。恋愛は不器用なくせに、こういう時はとてもスマートだから狡い。
桜佑の熱に、私の身体はいとも簡単に溶けそうになる。
「…おう、すけ…」
唇が離れたと同時、掠れた声で愛しい名前を呼ぶ。至近距離で視線が絡むと、桜佑は「どうした?」と目を細めた。
その表情が、いつにも増してかっこよく見える。きっとお肌のケアなんてしていないのに、陶器のように滑らかな肌に思わず手を添えると、桜佑が甘えるように頬を擦り寄せてくるから、その仕草にドクンと心臓が跳ねた。
「桜佑、絶対女慣れしてる」
「は?してねえよ」
「嘘だ。だったら、昔彼女がいたとか」
「いるわけねえだろ。お前今日の話ちゃんと聞いてたか?俺はずっとお前しか見てなかったって言ったろ」
「だって、桜佑って昔から勉強も出来て、運動神経も良くて、それでいて背も高いし顔も整ってるから、絶対モテただろうし」
「まぁモテなかったわけではないけど」
「ほらやっぱり」
「でも他の女を良いと思ったことは一度もない。俺はお前しか考えられなかったから」
てか、こんなこと何回も言わせんな。桜佑はコツンと額をぶつけてくると、至近距離で睨んでくる。けれどすぐにその表情はやわらかくなって「伊織」と優しい声音が鼓膜を揺らすと、どちらからともなく唇を重ねた。
角度を変え、何度も落ちてくるキスを受け止めていると、桜佑の手がゆっくりと服の裾から侵入してくる。
「え、待って。今日はさすがに無理だからね」
「なんで?」
「なんでって、昨日も散々無理だって言ったのに結局して、今日は実家訪問にカレー作り、そして昨日疲労が残っててもう体力の限界で…」
「それだけ喋れたら大丈夫だろ」
「口は大丈夫でも身体が無理なんだってば」
「心配しなくても、優しくするから」
「そういう問題じゃ……っ!」
心は無理なはずなのに、桜佑に触れられると身体が反応してしまう。まるで桜佑を求めているかのように、下腹部が疼く。
もうそこからはあっという間で、気付いた時にはお互い一糸纏わぬ姿だった。
桜佑と一緒にいたら、体力がいくらあっても足りないかも。
………まぁ、いいか。