甘い罠、秘密にキス

「そういえば佐倉さん、金曜日の夜、私見ちゃいましたよ」

「え?」


一瞬ピンとこなくて、一体なんの事だろうと首を捻った。


「日向リーダーに泣かされてましたよね」


井上さんの次の言葉でハッとした。
思い出した。彼女が言っているのは、きっと私が桜佑に告白の時のことだ。

あの時の私は告白のことで頭がいっぱいで、会社の前だということをすっかり忘れていた。


「私達のイオ様を泣かせた日向リーダーには殺意しか湧きませんが、遠目ではありましたけど佐倉さんのレアな泣き顔を見ることが出来たので、今回は許してあげようと思ったり思わなかったり…」

「……」


最悪だ。まだ見られていたのが井上さんだったから良かったものの、これがもし大沢くんだったら…


「さーくらさん」

「ヒィっ!」


安堵した矢先、恐れていた人物の声が鼓膜を揺らした。恐る恐る振り返れば「ビックリし過ぎですよ佐倉さん~」と、大沢くんがへらりと目尻を下げながら私を見下ろしていた。


「お、大沢くん…何か用でも?」

「ふふ、実は俺、見ちゃったんですよねー。金曜日の夜、佐倉さんと日向リーダーが外で話してるとこ」

「嘘でしょ?!」

「嘘じゃないっすよ。忘れ物したんで急いで戻ったら、会社の前におふたりがいて、よく見たら佐倉さんが泣いてて…でもなんかちょっと、いい雰囲気でしたよね?」


終わった───…。

よりによって大沢くんに見られていたなんて。もう桜佑との秘密の関係は、今日で終わり。きっと既に社員全員に知れ渡ってるだろう。

全身の血の気がサーッと引いていく。頭が真っ白になって、もはや生きている心地がしない。

< 282 / 309 >

この作品をシェア

pagetop