甘い罠、秘密にキス

「あ、もしかして大沢さんは知らないんですか?実はあの日、佐倉さんが仕事でやらかして、日向リーダーに叱られたらしいですよ」


魂が抜けている私の代わりに口を開いたのは井上さんだった。唯一私と桜佑の関係を知っている井上さんは、大沢くんにバレるのはヤバいと感じたのか、咄嗟に嘘をついてくれたみたいだ。

苦し紛れの嘘に、大沢くんは「え、そうなんすか」と目を丸くする。


「日向リーダーってクールですけど、あまり叱るイメージないのにな…。あの日向リーダーを怒らせるなんて、佐倉さんどんだけやらかしたんですか。てかそんな報告ありましたっけ?」

「いや、あの、そこまで酷く叱られたわけではないんだけどね、悔しさとか、自分の不甲斐なさに泣けてきちゃって…あはは、まさか見られてたなんてね。恥ずかしいとこ見せちゃってごめんね」


苦しい。苦しすぎる。
嘘をつくのは心が痛むけど、なにしろ相手が大沢くんだ。ここは心を鬼にして嘘を貫き通すしかない。

まぁ私達は本当の婚約者になったわけだし、いつかは皆にバレることなんだけど、大沢くんに広められるのは不本意。ここは何としてでも誤魔化したい。


「なんだ、そうだったんすね。てっきり佐倉さんと日向リーダーはデキて…」

「そ、そんなわけないじゃない」

「そっかービッグニュースだと思ったのになー」


あははーと呑気に笑う大沢くんを余所に、私と井上さんは目を合わせてほっと胸を撫でおろす。

井上さん、ナイスフォローだよ。本当にいい友人を持ったな私。

なんて安堵したのも束の間


「日向リーダーって怒るとこわいんすねー。でも佐倉さん、安心してください」

「え?」

「もうすぐ田村リーダーが戻ってくるらしいですよ。となると、日向リーダーも本社に戻るでしょうね」

「………え?」


大沢くんの口から出た言葉に、思わず目を見張った。
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