甘い罠、秘密にキス
「お父さん、納得してくれたの…?」
「最初はかなり渋ってたけど、今日はまだ酒も入ってなかったし、暴れたら警察呼ぶつもりでいたから無理やり納得させた感じ。それに本人も、大人になった俺に勝てないのは分かってたんだと思う。数年前に親の戸籍からも抜けてるし、念の為一筆書かせておいたから、当分は大人しくしてくれるはず」
「凄い…さすが桜佑」
「あいつのことで伊織に迷惑をかけたくないからな。不安要素は少しでもなくしておかないと」
桜佑は婚姻届に視線を落とすと、「あとは俺らが記入するだけか」と嬉しそうに目を細める。
久しぶりに父親に会って、きっと物凄く緊張したと思う。私達の未来のために、覚悟を持って行動してくれた桜佑に、胸がじんと熱くなるのを感じた。
「桜佑、ありがとう」
これが私から伝えられる精一杯の言葉だった。涙目になる私を見て、桜佑は「伊織って意外と泣き虫なんだな」と破顔した。
泣き虫でもなんでもいい。桜佑の気持ちや、その覚悟が私は嬉しいの。
「今まで桜佑がひとりで抱えてたことも、これからは私も一緒に背負うから。桜佑の苦労を全て理解することは出来ないかもしれないけど、少しでも支えることは出来るかもしれないし」
「俺はいつだってお前に支えられてるよ。むしろ、今までたくさん傷付けた分、必ず幸せにするから」
桜佑の手が私の頬に触れる。その熱に心が震えて、我慢していた涙が思わず溢れそうになった。