甘い罠、秘密にキス
「ほんと桜佑のご飯はいつも美味しいね」
「お前の胃袋、ちゃんと掴めてる?」
「胃袋どころか、心も全部掴まれてるよ」
桜佑が作ってくれた牛丼を、ひと口ひと口大事に頬張る。味が美味しいのは勿論だけど、牛丼ひとつでこんなにも幸せな気持ちになれるのは、桜佑と一緒に食べるからなんだと思う。
これから先、何年もこうしてふたりで食事が出来るのか。そう思うと、胸がじーんと熱くなった。
いや、もしこの先私達の間に子供ができたら、ふたりどころか皆で食卓を囲むことになる。“お父さんは料理が上手だね”なんて言いながら、賑やかで楽しい食事の時間を思わず想像してしまう。
桜佑が憧れていたあたたかい家庭を、現実にしてあげられるかも。
そう思うと嬉しくて、ワクワクして、そしてなんだか、泣きそうになった。
「頑張り屋さんな桜佑に、実はプレゼントがあります」
箸を止め、急に立ち上がる私を桜佑はキョトンとした顔で見ている。その間抜けな顔にクスッと笑いつつも、部屋の隅に置いていたバッグのところへと移動した。
「え、なに。どうした」
「いいからいいから」
仕事で使っている大きなビジネスバッグの中から、一冊の分厚い雑誌を取り出す。その様子を、桜佑が怪訝な表情で見守る。
「はいこれ。桜佑がずっと欲しがってた」
「それってもしかして…」
「そう、ゼクシィです」
仕事で外出していた時に、こっそりと買っておいた結婚情報誌。「結婚といえばゼクシィでしょ」とドヤ顔で決め台詞を放った私は、それをドンとテーブルの上に置くと、桜佑は興味津々にページを捲り始めた。
「すげー。初めて中を見たけど、ドレスとか式場とか結構色々載ってんのな」
「どう?嬉しい?」
とか言って、本当は私が欲しかっただけなんだけど。
「うん、嬉しい」
「喜んでもらえて良かった」
「てかお前がこれを買おうと思ってくれたことが嬉しい」
ありがと。と素直に感謝され、不覚にも照れて、顔が熱くなった。