結婚しないために婚約したのに、契約相手に懐かれた件について。〜契約満了後は速やかに婚約破棄願います〜
帰宅した2人を見てお出迎えに出てきたシルヴィアは、平手打ちされたルキのまだ赤い頬を見て、
「どうされたのです! お兄様!!」
と絶叫する。
「ベルに殴られた」
「殴ってません、平手打ちです。第一端折り過ぎです」
一方的に私が悪いみたいじゃないですかとベルは抗議の声を上げる。
事情を説明すれば、
「ベルのお義姉様がご懐妊! まぁおめでとう!!」
シルヴィアはまるで自分の事のように嬉しそうにそう言ってくれた。
相変わらず天使とベルはシルヴィアを見て癒されながら、シルヴィアにお土産を渡す。
「シル様刺繍されたいと言っていたので。綺麗な色が入ってたのでお土産です」
シルヴィアが普段使う高級品の刺繍糸ではないが、とても綺麗な色だったので思わず買ってしまった。
「わぁ、素敵な色味。ありがとう、ベル。大事に使うわ。……ふふ、私の色ね」
柔らかな金と濃紺と淡いピンクの糸を手に取りシルヴィアは笑ってお礼を言う。
「他にも何色か。シル様の作品楽しみにしていますね」
ベルはどういたしましてと笑う。
「ベルのベビー服も楽しみ! できたら見せてね」
「勿論、喜んで」
「ねぇ、ベル。赤ちゃんが生まれたら私もベルのお義姉様にプレゼントを贈りたいわ」
「うちの義姉に、ですか?」
「ええ、だって生まれてくる子はベルの甥っ子か姪っ子なわけでしょ? 血縁関係はないけど、遠からず親戚になるわけだし」
「……親戚」
そう言われてベルは思わずルキの顔を見る。ルキもなんと言えばいいのか困った表情を浮かべ、沈黙を保つ。
「お義姉様がご出産を終えられたらきっとベルはしばらくご実家に戻るのよね? どれくらい滞在するのかしら?」
「えっと……まだ未定です。生まれてくるのはまだ先、春頃のことですし」
予定を聞かれたベルは歯切れ悪くそう答える。ベロニカが出産する頃にはもう、ルキとの関係を精算していて、当然この公爵邸からも出ているはずだ。
「そうよね。あ、私もストラル伯爵邸に会いに行ってもいいかしら?」
ベルにも赤ちゃんにも会いたいしとシルヴィアはキラキラした目でそう尋ねる。
「え? うちにですか?」
「ダメ……かしら?」
驚いた声でベルに聞き返され、シルヴィアはしゅんとした表情を浮かべる。
「ベルが、いつも話してくれる素敵な伯爵夫人にお会いしたいのもあるけど……ベルがずっと帰って来ないの寂しいなって」
「……シル様」
口籠もりながらそう話してくれるシルヴィアを見て、ベルは目を伏せる。
彼女はこの契約婚約があと3ヶ月ほどで終わる事を知らない。
ベルがルキと結婚することもなければ、ブルーノ公爵家とストラル伯爵家が親戚になることもない。
そして、次に自分がここから出て行ったなら、2度と公爵家の敷居を跨ぐ事がない事も。
「……聞いておきます。義姉の都合もありますので」
産後は大変だと聞きますからと言ったベルに、ありがとうと満面の笑みを向けるシルヴィア。
そんな彼女を見ながら、ベルはどうしようもない罪悪感を覚える。自分がいなくなった後で、彼女は何を思うだろう。
ベルがそう思っていると、
「あ、そうだ。私もベルにプレゼントがあったの」
そう言って、シルヴィアはメイドに指示してコスモスの花束を持って来させる。
「庭のコスモスが綺麗だから、特別に作ってもらったの」
最近帰りが遅くてお散歩できないでしょうとベルに差し出す。
差し出された花束を一瞬悲しそうな目で見たベルは、
「……ベル? どうしたの?」
そう言われて思わずシルヴィアを抱きしめる。
「シル様のご友人になれて、嬉しいなぁって思っただけです。私は、シル様が大好きですよ」
「知ってるわ。私も、ベルのこと好きよ」
私達相思相愛ね、と笑うシルヴィアの髪を撫でて、
「それは、とても光栄ですね」
とベルは優しく笑った。
「どうされたのです! お兄様!!」
と絶叫する。
「ベルに殴られた」
「殴ってません、平手打ちです。第一端折り過ぎです」
一方的に私が悪いみたいじゃないですかとベルは抗議の声を上げる。
事情を説明すれば、
「ベルのお義姉様がご懐妊! まぁおめでとう!!」
シルヴィアはまるで自分の事のように嬉しそうにそう言ってくれた。
相変わらず天使とベルはシルヴィアを見て癒されながら、シルヴィアにお土産を渡す。
「シル様刺繍されたいと言っていたので。綺麗な色が入ってたのでお土産です」
シルヴィアが普段使う高級品の刺繍糸ではないが、とても綺麗な色だったので思わず買ってしまった。
「わぁ、素敵な色味。ありがとう、ベル。大事に使うわ。……ふふ、私の色ね」
柔らかな金と濃紺と淡いピンクの糸を手に取りシルヴィアは笑ってお礼を言う。
「他にも何色か。シル様の作品楽しみにしていますね」
ベルはどういたしましてと笑う。
「ベルのベビー服も楽しみ! できたら見せてね」
「勿論、喜んで」
「ねぇ、ベル。赤ちゃんが生まれたら私もベルのお義姉様にプレゼントを贈りたいわ」
「うちの義姉に、ですか?」
「ええ、だって生まれてくる子はベルの甥っ子か姪っ子なわけでしょ? 血縁関係はないけど、遠からず親戚になるわけだし」
「……親戚」
そう言われてベルは思わずルキの顔を見る。ルキもなんと言えばいいのか困った表情を浮かべ、沈黙を保つ。
「お義姉様がご出産を終えられたらきっとベルはしばらくご実家に戻るのよね? どれくらい滞在するのかしら?」
「えっと……まだ未定です。生まれてくるのはまだ先、春頃のことですし」
予定を聞かれたベルは歯切れ悪くそう答える。ベロニカが出産する頃にはもう、ルキとの関係を精算していて、当然この公爵邸からも出ているはずだ。
「そうよね。あ、私もストラル伯爵邸に会いに行ってもいいかしら?」
ベルにも赤ちゃんにも会いたいしとシルヴィアはキラキラした目でそう尋ねる。
「え? うちにですか?」
「ダメ……かしら?」
驚いた声でベルに聞き返され、シルヴィアはしゅんとした表情を浮かべる。
「ベルが、いつも話してくれる素敵な伯爵夫人にお会いしたいのもあるけど……ベルがずっと帰って来ないの寂しいなって」
「……シル様」
口籠もりながらそう話してくれるシルヴィアを見て、ベルは目を伏せる。
彼女はこの契約婚約があと3ヶ月ほどで終わる事を知らない。
ベルがルキと結婚することもなければ、ブルーノ公爵家とストラル伯爵家が親戚になることもない。
そして、次に自分がここから出て行ったなら、2度と公爵家の敷居を跨ぐ事がない事も。
「……聞いておきます。義姉の都合もありますので」
産後は大変だと聞きますからと言ったベルに、ありがとうと満面の笑みを向けるシルヴィア。
そんな彼女を見ながら、ベルはどうしようもない罪悪感を覚える。自分がいなくなった後で、彼女は何を思うだろう。
ベルがそう思っていると、
「あ、そうだ。私もベルにプレゼントがあったの」
そう言って、シルヴィアはメイドに指示してコスモスの花束を持って来させる。
「庭のコスモスが綺麗だから、特別に作ってもらったの」
最近帰りが遅くてお散歩できないでしょうとベルに差し出す。
差し出された花束を一瞬悲しそうな目で見たベルは、
「……ベル? どうしたの?」
そう言われて思わずシルヴィアを抱きしめる。
「シル様のご友人になれて、嬉しいなぁって思っただけです。私は、シル様が大好きですよ」
「知ってるわ。私も、ベルのこと好きよ」
私達相思相愛ね、と笑うシルヴィアの髪を撫でて、
「それは、とても光栄ですね」
とベルは優しく笑った。