結婚しないために婚約したのに、契約相手に懐かれた件について。〜契約満了後は速やかに婚約破棄願います〜
 朝起きて来たシルヴィアはルキの手にあるミシェルを見て目を見開く。
 昨日あれだけぼろぼろになっていたミシェルが、綺麗に整えられ自分と同じドレスまで着ている。
 ルキからミシェルを手渡されたシルヴィアは泣きそうな顔でそれを抱きしめた。
 その顔を見て、ああ本当にずっと大事にしていてくれたのかとルキはベルの言葉を実感し、シルヴィアのプラチナブロンドの髪を優しく撫でた。

「その……ごめん、なさい。あと、ミシェルのこと、ありがとう」

 ルキの後ろにいるベルは昨日と同じ服のままで、とても眠そうな顔をしている。ずっとミシェルのことを直してくれていたのだと分かり、シルヴィアは素直にお礼を言った。

「お兄様の婚約者……とは認めないけど、私の専属の侍女にしてあげてもよくってよ」

 ミシェルを抱いたシルヴィアはベルに近づくと顔を真っ赤にしながらそっぽを向いて、ちょっと照れながらそう言う。

「ああ、やばいっ。美少女のツンとデレ。最っ高かっ!! もはや今までの過程全てがご褒美でしかない」

 ぐっと拳を握りしめたベルは、天使のように可愛い見た目のシルヴィアを拝みながらそう叫ぶ。

「でもせっかくのお誘いですが、日中私は仕事があるので、侍女は難しいですねぇ」

 そして残念そうにそう断った。

「……うぅぅ、その。すぐには無理でも、いつかはお姉様と認めてあげなくもなくないっていうか」

 ベルににべもなく断られ、シルヴィアは小さな声で訴える。
 そんなシルヴィアにクスッと笑ったベルは、膝をついてシルヴィアの手を取り、

「シルヴィアお嬢様、安心してください。私が次期公爵様をシルヴィアお嬢様から取ることはありませんし、私をシルヴィアお嬢様の姉と思う必要はありませんよ」

 どうせ1年限りの関係ですしと内心で付け足してそう告げる。

「でも、せっかくなので、できたらシルヴィアお嬢様のお友達にしていただけると嬉しいです。ミシェル様の次くらいの仲良しに」

 どうぞ、ベルとお呼びください。
 そして仲良くなった暁にはぜひクローゼットに眠る不要な衣装を買い取らせてくださいと欲望のままそういった。
 なぜ兄の婚約者が自分の不要なドレスを欲しがるのかは分からないが、

「……シル。私がベルと呼ぶならシルって呼んでもいいわよ」

 仲良くしてあげてもいいかもしれない。
 シルヴィアが照れくさそうに笑ってそう言う姿を微笑ましそうに見たベルは、

「はい、では改めましてよろしくお願いしますね。シル様」

 とても優しくそう言った。
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