結婚しないために婚約したのに、契約相手に懐かれた件について。〜契約満了後は速やかに婚約破棄願います〜
「さすがユラン君の作品ね、綺麗だわ」

 ベルは修繕の終わったドレスを着てその場でくるりと回ると最終確認を行いながらそう言った。

「ベルっちすごいドレス着慣れてるね」

「最近は特に着る機会が多かったから」

 主にルキの風除けとして。
 何事も経験しておくと役に立つなと思ったベルは、

「まさか人生上でウェディングドレスを着る日が来るとは思わなかったわ」

 と苦笑する。

「いやいやいや、あんなカッコイイ婚約者がいるくせに何をいってるのさ」

 本当に結婚する時はもっといいドレス着せてくれるってとユランは最終チェックを終えて笑う。

「それにしても会場盛り上がってるね」

「今ライブ状態だもん。まさかホントにペンライト買い占めて飛龍便で送ってくれるとは思わなかったワ」

 ベルが持っていたペンライトを見たユランが、服飾科全員でドレスを修繕するための時間を稼ぐ案として、ペンライトを使ったカラードレスの色当てクイズの余興をすることとその後音楽に合わせて観客がペンライトを振り、モデルがドレスを着て会場を練り歩く事を提案した。
 それを聞いたルキが、

『ハルに聞いたけど今クロネコ商会パーティーグッズの品揃えが充実してるらしいね』

 と公爵家持ちでペンライトを買い占めて超特急便の飛龍で運ぶ手配をしてくれた。
 ペンライトの配布で開始時間が遅れたが、おかげで会場は今大盛り上がりだ。

「準備完了ね」

 行きますか、とベルが立ち上がったのと、

「……ベル、時間だって」

 ルキが声をかけに部屋に入って来たのはほぼ同時だった。
 ルキはウェディングドレス姿のベルを見て濃紺の瞳を見開く。
 目が合ったベルはふふっと楽しそうに微笑むと、

「ルキ様、ありがとうございます」

 ルキの前で淑女らしく礼をする。
 舞台袖までのエスコートを申し出たルキの腕に捕まって軽やかに歩くベルの背中に、

「ベルっち、ありがとう! アタシ、やっぱやりたい進路に進むことにするワ」

 楽しそうなユランの声が届いた。
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