結婚しないために婚約したのに、契約相手に懐かれた件について。〜契約満了後は速やかに婚約破棄願います〜
 2人のやりとりを一通り聞き終えたベルは、

「妊……え、えーー! わぁーおめでとう!!」

 びっくりしたように声を上げる。

「え、えーー! 嬉しいっ、男の子かな、女の子かな?」

 ベロニカの許可を得て触った彼女のお腹はすでに膨らみが分かるほどの大きさになっていた。

「まぁ伯爵似だといいなぁーって言いましたけど、正直どちらでも良いのです、元気なら」

 そう言って笑いながらお腹を撫でるベロニカの顔は本当に幸せそうだった。

「私、実家帰ってきた方がいい? それともヒトを雇う?」

 産後お手伝いはどれくらい必要なんだろうとベルは今後の予定を尋ねる。

「極力自分達で育てたいと思っています。でも、ベルさんが手伝ってくれたら嬉しいです」

 あとお義母さんにもお願いしましたし、必要に応じてお手伝いさんも頼みますとベロニカは話す。

「ベビー服! ベル服作りたいっ!! ベビーグッズ買いに行くのは、お兄様と行ってくださいね! お義姉様重たいもの持っちゃダメですよ」

 プレゼント何が欲しいですか? と興奮気味のベルにベロニカはお礼を述べる。

「はい、気をつけます。ベルさんも生まれたら可愛がってくださいね」

「めちゃくちゃ可愛いがる! 構い倒す!!」

 はーいと元気よくそうアピールしたベルにベロニカは頼りにしています、とふふっと笑った。

 夕食後、片付けを終えたベルはお茶に誘ってくれたベロニカと2人でホットミルクを飲む。

「ところで、ベルさんは何かお話ししたい事があって来たんじゃないですか?」

 とベロニカが話を切り出した。

「お義姉様って、お兄様のどこが良くて結婚の承諾をしたの?」

「え? 伯爵の好きなとこ語り出したら10年くらいかかりますけどいいですか?」

 ちなみにプロポーズしたのは私ですよと言ったベロニカに、

「できたらショートバージョンでお願いします」

 ベロニカは本当に兄が好きだなとベルはクスクス笑う。

「"愛してる"って、どうやったら分かるんでしょう? 目に見えないそれはたくさんの形があって、家族愛だったり、友愛だったり、恋愛だったりって、どうやって区別するのかなって」

 ルキの抱える悩みは話さずに、ベルはストレートにベロニカに尋ねてみる。
 ホットミルクをゆっくり飲んだベロニカは、金色の瞳を瞬かせ、きれいに微笑むと、

「そうですねぇ。言葉にするのは難しいです。もしかしたら、明確な答えも基準も線引きすらなくて、ただ自分の心が動いてそうだと思えばそうなのかもしれませんね」

 と静かにそう言った。
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