結婚しないために婚約したのに、契約相手に懐かれた件について。〜契約満了後は速やかに婚約破棄願います〜
あくまで私の場合なのですけれど、と前を置きをして、ベロニカは言葉を紡ぐ。
「伯爵は私自身も目を逸らしていた"願望"に気づいてくれて、一番欲しい言葉をくれました」
それは、ベロニカがまだこの国で呪われ姫と呼ばれていた頃の、今は伯爵と自分以外誰も覚えていない物語。
「……願望?」
「きっと私はずっと誰かに受け入れて欲しかったのです。その誰かが伯爵であった事を私は心から嬉しく思います」
何を引き換えにしても、この人を手放したくないと思った。そんな子どもじみた感情ごと伯爵は受け入れてくれたのだ。
「これは私の考えですが、恋は一人でもできるけど、愛は相手がいないと育めないんです」
ベロニカは胸の辺りを手で手を組み目を閉じる。
「嬉しい事があった時、悲しい事があった時、私は一番にキースに聞いて欲しい。キースにとって私もそうであって欲しいし、キースに何かあった時、私が一番にそばにいたい」
普段渾名のように兄の事を伯爵と呼ぶベロニカがとても愛おしそうにその名を呼ぶのを聞き、ベルはただ静かにベロニカの言葉に耳を傾ける。
ゆっくり金色の目を開けたベロニカは、
「愛しているは、きっとたくさんあるんです。私はもちろんベルさんの事も愛していますよ」
キースと私の自慢の妹ですからと、とても優しく微笑んでベルの手を取る。
「愛しているの中でも"特別"なモノがあって、その特別は相手にどれだけ"触れたい"と思うかで決まるんじゃないかと私は思います」
「……特別」
つぶやくように言葉を繰り返すベルにベロニカは静かに頷いて、
「その触れたい衝動は相手の心だったり、身体だったり色々だと思うんですけど、でもお互いにそれを許し合えるほど近くにいられるってすごい事だと思いませんか?」
ベルのアクアマリンの瞳を見ながらそう言うと、
「その感情にお互い名前を望んだとき、相手との関係って決まるんじゃないかなって私は思います」
ベロニカは優しく微笑んで言葉を締めくくった。
ベルは、ベロニカの話してくれた言葉を考える。
(触れたいと、思うか? それを相手に許せる、か?)
「もし、片方が許せなくて、叶わない想いだったらそれは無駄なのかな?」
"好きかもしれない"と言ってくれたルキに、自分はどこまで許せるだろうとベルは思う。
きゅっと胸の辺りを押さえてベルはそう尋ねる。
ずっと、ずっと、誰にも言えなかった事がある。それは根深くベルの中に刺さっていて、未だにどうすることもできなくて。
ルキと付き合うと決めたけれど、先がない関係で、こんな思いを抱えたままルキの気持ちとキチンと向きあえるだろうか、とベルは躊躇う。
そんなベルの心情を察したように、
「それはその人次第ですね、きっと」
それを糧に別の誰かを大事にしたり、自分を成長させるきっかけになるかもしれませんし、とベロニカは優しい口調でそういった。
「……そっか」
ベルは苦しそうな顔で気持ちを打ち明けてくれたルキの事を思い出す。
「そうだと、いいなぁ」
終わりが決まっている関係だけど、ルキが自分に向けてくれた感情に名前をつけることに意味を見出して、彼がこれから先を歩き出せたらいいなとベルは静かにそう祈った。
「伯爵は私自身も目を逸らしていた"願望"に気づいてくれて、一番欲しい言葉をくれました」
それは、ベロニカがまだこの国で呪われ姫と呼ばれていた頃の、今は伯爵と自分以外誰も覚えていない物語。
「……願望?」
「きっと私はずっと誰かに受け入れて欲しかったのです。その誰かが伯爵であった事を私は心から嬉しく思います」
何を引き換えにしても、この人を手放したくないと思った。そんな子どもじみた感情ごと伯爵は受け入れてくれたのだ。
「これは私の考えですが、恋は一人でもできるけど、愛は相手がいないと育めないんです」
ベロニカは胸の辺りを手で手を組み目を閉じる。
「嬉しい事があった時、悲しい事があった時、私は一番にキースに聞いて欲しい。キースにとって私もそうであって欲しいし、キースに何かあった時、私が一番にそばにいたい」
普段渾名のように兄の事を伯爵と呼ぶベロニカがとても愛おしそうにその名を呼ぶのを聞き、ベルはただ静かにベロニカの言葉に耳を傾ける。
ゆっくり金色の目を開けたベロニカは、
「愛しているは、きっとたくさんあるんです。私はもちろんベルさんの事も愛していますよ」
キースと私の自慢の妹ですからと、とても優しく微笑んでベルの手を取る。
「愛しているの中でも"特別"なモノがあって、その特別は相手にどれだけ"触れたい"と思うかで決まるんじゃないかと私は思います」
「……特別」
つぶやくように言葉を繰り返すベルにベロニカは静かに頷いて、
「その触れたい衝動は相手の心だったり、身体だったり色々だと思うんですけど、でもお互いにそれを許し合えるほど近くにいられるってすごい事だと思いませんか?」
ベルのアクアマリンの瞳を見ながらそう言うと、
「その感情にお互い名前を望んだとき、相手との関係って決まるんじゃないかなって私は思います」
ベロニカは優しく微笑んで言葉を締めくくった。
ベルは、ベロニカの話してくれた言葉を考える。
(触れたいと、思うか? それを相手に許せる、か?)
「もし、片方が許せなくて、叶わない想いだったらそれは無駄なのかな?」
"好きかもしれない"と言ってくれたルキに、自分はどこまで許せるだろうとベルは思う。
きゅっと胸の辺りを押さえてベルはそう尋ねる。
ずっと、ずっと、誰にも言えなかった事がある。それは根深くベルの中に刺さっていて、未だにどうすることもできなくて。
ルキと付き合うと決めたけれど、先がない関係で、こんな思いを抱えたままルキの気持ちとキチンと向きあえるだろうか、とベルは躊躇う。
そんなベルの心情を察したように、
「それはその人次第ですね、きっと」
それを糧に別の誰かを大事にしたり、自分を成長させるきっかけになるかもしれませんし、とベロニカは優しい口調でそういった。
「……そっか」
ベルは苦しそうな顔で気持ちを打ち明けてくれたルキの事を思い出す。
「そうだと、いいなぁ」
終わりが決まっている関係だけど、ルキが自分に向けてくれた感情に名前をつけることに意味を見出して、彼がこれから先を歩き出せたらいいなとベルは静かにそう祈った。