侯爵閣下。私たちの白い結婚には妥協や歩み寄りはいっさいないのですね。それでしたら、あなた同様私も好きなようにさせていただきます
 迷った。あれだけ啖呵をきって飛び出したのに、まだそんなに経っていないのにもう降参して連れて帰ってもらうわけ?

 わたしにはプライドはもちろん、意気地もないのね。

 またしても、自分自身が情けなくなった。

 しかし、その一方でうれしい気持ちもある。

 なんだかんだ言って、侯爵はわたしのことを少しは思ってくれているのだということがわかったから。

「アール、今日は日が悪いわ。侯爵が『戻って来てくれ』とお願いしてくるのなら、戻ってもいいわよね? あなたはどう思う」

 わたしは、意気地はないのに意地っ張りみたい。

「クーン」

 しかも、優柔不断でもある。アールに決断を委ねると、彼は困ったような鳴き声で応じた。

「キャハハハ。面白いわね、それ」

 そのとき、甲高いレディの笑い声がきこえてきた。
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