フェチらぶ〜再会した紳士な俺様社長にビジ婚を強いられたはずが、世界一幸せな愛され妻になりました〜
いつしか芽生えてしまっていた奏への淡い恋心を胸の奥底へと封印するべく、穂乃香は奏の胸を強い力で押しやり拒絶の言葉を繰り出した。
「お、お言葉ですが、私は社長に弱音を吐いて慰めてもらうほど弱い女ではありませんし、優しくされても素直に甘えられるような可愛げのある女でもありません。さっきのあれは事故のようなものです。なので早く離してくださいっ!」
ところが奏の逞しい胸板はビクともしない。それどころか奏によって容易く組み敷かれてしまう。
あまりの急展開に思考が追いつかず、穂乃香は高い声を放つのが精一杯。
「キャッ!」
その声の余韻が寝室の静寂に溶け入る刹那、穂乃香の眼前には奏の端正な相貌が迫っていた。
これまでも奏からは幾度も熱烈なアプローチを受けてはきたが、これほどの至近距離で相まみえるのは初めてだ。
鼻先すれすれで互いの吐息がかかってしまうほどの至近距離。しかも顔面偏差値どころか、何もかも完璧でどこにも隙などないハイスペックな極上のイケメン。
そんな奏に熱い眼差しで見据えられているのだ。
――こんなの平静でいられるはずがない。下手したら即死だ。
奏の熱視線に捉えられ身動ぎも息継ぎもできない。かといって視線を逸らすこともままならない。
時間にすればおそらく数十秒ほど、それが途轍もなく長く感じられる。
ただただ見つめ返すことしかできない穂乃香の心臓は、暴れすぎて今にも停止してしまいそうだ。
――このままでは天国の両親の元へ召されてしまう。
などと穂乃香の思考がおかしな方に傾きかけた頃、奏の声音が耳に届いた。
「穂乃香をそうさせたのはあの男なんだろう」