フェチらぶ〜再会した紳士な俺様社長にビジ婚を強いられたはずが、世界一幸せな愛され妻になりました〜
残念なことに、キスで潤みきった視界が覚束ないのと奏の端正な顔に翳りが生じて、表情は窺えない。
穂乃香はキスの余韻に浸りつつも、奏の形のいい唇がしっとり濡れて銀糸を引く様をうっとり眺めていた。
それも束の間、二人を繋いでいた銀糸が途切れた途端に物寂しくなってしまった穂乃香だったが、同時に我を取り戻し、それどころではなくなってしまう。
なぜなら奏が今朝過労で高熱を出し倒れたばかりだというのを思い出したからだ。
――ど、どうしよう。しっかり看病しなきゃいけない立場なのに……。
悪化でもさせたら柳本に何を言われるか。
――いやいや、そんなことより、今は社長の体調のほうが大事でしょ!
自分に課せられた任務を思い出した穂乃香は、大慌てで奏の胸を押し返した。
「しゃ、社長、離してください。これ以上はダメです! 悪化して熱がぶり返してしまいます!」
「嫌だ。やっと穂乃香が受け入れてくれたんだ。悪化して死んでも離すもんか」
穂乃香の言葉に対して奏は相変わらず傲慢ではあるものの、子ども染みた可愛らしい台詞で、穂乃香の胸をときめかせてくる。
そうしてトドメだとばかりに、穂乃香の身体をぎゅぎゅうっと腕に強く抱き込んで離そうとしない。
これではまるで駄々っ子だ。
けれども普段の大人で紳士な奏からは想像もつかない、かけ離れた言動は、凄まじい威力を秘めたギャップでしかない。