フェチらぶ〜再会した紳士な俺様社長にビジ婚を強いられたはずが、世界一幸せな愛され妻になりました〜
フィッティングルームから恐る恐る顔を覗かせた穂乃香の姿を目にした奏は、コーヒーの注がれたカップを片手にどういうわけだか固まってしまっている。
――そんなに似合ってないのかな?
穂乃香がシュンと肩を落としかけたその刹那。おもむろにソファから立ち上がった奏が店員らに何やら目配せをするとすぐに退室していく。
出入り口の扉がバタンと音を立てたときには、歩み寄ってきた奏によって包み込むようにして、ふわりと腕に閉じ込められていた。
いきなり奏の甘やかな香りに包み込まれてしまったせいか、頭がくらくらしてくる。
奏に縋ってしまったあの夜以来、奏の体温をこんなにも間近で感じたことがなかったせいだ。
そう言いたいところだが、残念ながらそうではない。
奏のことをそれだけ好きになってしまっているからだ。
けれどもこうして奏への想いに気づかされるたびに、あの疑惑が浮かび上がってきてしまう。
『好きだ、愛している、などと言ってくれてはいるが、それもこれもすべては後継者をもうけるためなのでは……』
それはまるで呪縛のように、穂乃香の心を苛むのだった。
――それなのに、ちょっと抱きしめられただけで、こんなにも嬉しいだなんて。どうしよう? これ以上好きになったら辛くなるだけなのに……。