フェチらぶ〜再会した紳士な俺様社長にビジ婚を強いられたはずが、世界一幸せな愛され妻になりました〜
穂乃香は不覚にもたじろいでしまいそうになった。
だが、自分に結婚の意思が全くないことを伝えるために言い募る。
「そ、そんなの分からないじゃないですか。それ以前に、今は誰かと付き合うなんて考えられません。社長だってご存じのはずです。あの夜、私が婚約者に裏切られ婚約破棄されたのを。ですので結婚には応じられません」
だが残念なことに、社長からは穂乃香が望んだ言葉は得られなかった。
「もちろん覚えているとも。君には気の毒だが、おかげで理想通りの香りを醸し出す、素晴らしい女性と巡り会うことができた。俺にとっては幸運なことだよ」
感慨深げにそう言うと、自嘲じみた笑みを湛えた社長が過去の恋バナを語り始めた。
「これまでは、本当に散々だったからな」
これまで、大企業の御曹司である奏に、どぎつい香水を振り撒きながら猫なで声で擦り寄ってくる女性に辟易していた、から始まって。
交際経験はあっても、自ら告白したことは一度もなく。見た目が好ましくても、好みの香りでなかったり、やや好みの香りを醸し出す女性との交際を経ても、結局は社長の地位や見かけだけで中身を見ようともしなかった女性に本気にはなれず、いつも長続きしなかったらしい。