フェチらぶ〜再会した紳士な俺様社長にビジ婚を強いられたはずが、世界一幸せな愛され妻になりました〜
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 穂乃香が竹野内グループに中途入社してから早いもので一ヶ月が経過した。

 出勤初日、変態男との思いがけない再会を果たした。まさか変態男が社長だなんてついてないにも程がある。

 それだけでも驚きだというのに、いきなりプロポーズまでされた。

 即座に断るも、強制はしないと言いながらも断れない状況に追い込まれた。

 挙げ句、三ヶ月のお試し期間まで設けられてしまった。

 社長の人となりを知ったところで、好きになるはずがない。ましてや結婚なんて考えられないというのに……。

 ――このままだと試用期間が終わると同時に入籍されてそうで怖い。

 けれど生真面目な性格である穂乃香には、転職したばかりで退社するという選択肢などなかった。

 正確には、弟の奨学金の一部を肩代わりされているのだから、穂乃香に逃げ場などないのだが。

 それでもなんとかして社長の気持ちを自分から他に向けられないだろうか、と勘案していた。

 穂乃香の不安と画策をよそに、当の社長は大企業を背負っているだけのことはあるな、と穂乃香を感心させるほどの辣腕ぶりを見せている。

 てっきり公私混同と職権乱用を発揮されるものだと思い込んでいた穂乃香にとって、肩透かしを食らったような心境だ。

 そこに仕事にストイックなくらいに真剣に情熱を注ぎ込む奏の姿が加わって、当初抱いていた印象はがらりと覆りつつある。

 正直、意外でしかなかった。

 大企業の御曹司という立場に胡座を掻いているものだと思っていたからだ。

 翌日、第二秘書として付き従えるようになった穂乃香は衝撃を受けることとなった。

 朝コーヒータイムの僅かな時間にその日の分刻みのスケジュールを確認し、その内容を一度耳にするだけで暗記してしまうことにも驚いたのだが、経歴にも驚かされた。

 奏は、海外の超が付くほど有名な名門大学を首席で卒業しており、技術職にも劣らない専門的な知識を有しているようだ。

 そういう背景もあって、海外帰りに加えて社長に就任したばかりでただでさえ多忙を極めているというのに、国内外を問わず取引先や支社からのアポイントが絶えずリスケも日常茶飯事。

 けれどどんな案件にも迅速かつ丁寧に対応し一つひとつ完璧に熟していく。

 その姿は水を得た魚のごとく実に生き生きとしている。

 さすがは大企業のトップ。

 他者を圧倒する王者たるオーラを纏い、キラキラと眩いくらいだ。

 仕事にひたむきに向き合う姿勢からも、この仕事が好きで好きで堪らない、というのがひしひしと伝わってくる。

 出会いと出勤初日の印象が相まって、穂乃香の中でどん底まで降下していた好感度がみるみる向上し、通常の位置まで浮上するまでさほど時間はかからなかった。

 だからって当初の印象が真っ白に塗り替えられたわけではない。

 数ヶ月前に婚約者だったクズ男に二股をかけられた上に式場のキャンセル料まで請求されてしまうという、とんでもない目に遭わされたのだ。

 そう簡単に男性不信が払拭されるはずがない。

 とはいうものの、ワーカホリックを地で行く社長のおかげで初日のようなこともなく、新しい職場にも慣れ穂乃香は意外にも充実した日々を送っていた。

 常に働きたい企業ランキングトップを独占しているだけあり、職場の環境も雰囲気も良く仕事もやりやすいのだ。

 もうすぐゴールデンウィークとあって、いつもは静かで落ち着いた雰囲気を醸し出している秘書室の面々もにわかに浮き足立っている、ように見受けられる。

 職場にもすっかり馴染んでいる穂乃香も例に漏れず、頭の中はゴールデンウィーク一色となっていた。

 普段学業とバイトに勤しんでいる弟の樹に何か美味しいものでも食べさせてあげよう、と密かに計画を練っていたから。

 ――やっぱり焼き肉がいいかしら。

 などと呑気に思案していた穂乃香の思考と耳に、ふいに心地良いバリトンボイスが割り込んでくる。

「穂乃香が仕事中に考え事とは珍しいな。雨でも降るんじゃないか」

 その声で現実に引き戻された穂乃香がハッとし顔を上げると社長の端正な顔が思いの外近くに迫っていて、危うく心停止するところだった。

 午後一で開かれる会議に出席するためエレベーターで社長と一緒に移動中なのだが。

 ガラス張りの壁に背を向け扉の近くに立っていた穂乃香は、正面から迫ってきた奏によって壁に追い込まれていた。

 いわゆる壁ドンの体勢で両手を壁についた社長に包囲されてしまっている。

 驚かないわけがない。

 こんな状況に置かれて平然としていられる人間がいたならお目にかかりたいくらいだ。

 ーーな、なんなの急に。心臓麻痺で死んだら労災で訴えてやるんだから!

 ドクドクと加速する鼓動を何とか鎮めようと心の中で悪態をつきつつ、社長の胸を押し返した穂乃香は謝罪の言葉を紡ぎ出すのが精一杯だった。

「も、申し訳ございませんっ」

 何とか社長から距離をとろうとした穂乃香の抵抗も虚しく、社長の身体が穂乃香の身体に覆い被さるようにしてぐっと眼前に迫ってくる。

 驚いた穂乃香が条件反射で身体をぎゅっと縮こめた時には、社長にふわりと包み込まれてしまっていた。

 途端に、特殊な嗅覚故に香水などつけていないにもかかわらず、社長の纏う甘やかな香りと温かな体温とに包み込まれた穂乃香の鼓動は、もはや尋常ではない速さで騒ぎ始めてしまっている。

 そこにバリトンボイスで奏でられた甘やかな声音が耳朶を擽ってくる。

「謝罪なんて必要ない。代わりに穂乃香を補充させてくれないか?」

 同時に腰をぐっと引き寄せられ、彼の身体と密着した穂乃香の下腹部が甘く切なく疼いてしまう。

 あの夜の記憶はないのに、身体が示す反応が確かにあの夜社長と一夜を共にしたのだと物語っているようで、それがどうにも恥ずかしくて仕方ない。

 またその時の記憶を呼び起こしてしまいそうで、それがなにより怖くて堪らなかった。

 今は記憶がないから社長と普通に接していられるが、思い出してしまったら穂乃香には平静でいられる自信などない。

 そんな穂乃香の不安と画策をよそに、当の社長は意外にも大企業を背負っているだけのことはあるな、と穂乃香を感心させるほどの辣腕ぶりを見せている。

 てっきり公私混同と職権乱用を発揮されるのだろうと思い込んでいた穂乃香にとって、肩透かしを食らってしまったような心境だ。

 そこに仕事にストイックなくらいに真剣に情熱を注ぎ込む奏の姿が加わって、当初抱いていた印象はがらりと覆りつつある。

 正直、意外でしかなかった。

 大企業の御曹司という立場に胡座を掻いているものだと思っていたからだ。

 翌日から第二秘書として付き従えるようになった穂乃香は衝撃を受けることとなった。

 朝コーヒータイムの僅かな時間にその日の分刻みのスケジュールを確認し、その内容を一度耳にするだけで暗記してしまうことにも驚いたのだが。

 元々海外の超が付くほどの有名な名門とされる大学を首席で卒業しているそうで、技術職にも劣らない専門的な知識を有しているようだ。

 そういう背景もあって、海外帰りに加えて社長に就任したばかりでただでさえ多忙を極めているというのに、取引先や各部署からのアポイントがありリスケも日常茶飯事。

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