紳士な俺様社長と離婚前提の契約婚!?
そう切り出してきた柳本は、穂乃香の顔色を窺いながら「しかしな」と二の足を踏む奏の様子を横目に見遣ると、今度は穂乃香に向けてさも当然の如く言い放った。
「穂乃香さんも、社長には元婚約者の件で大きな借りを作ってしまっているのですから、さぞかしお心苦しいことでしょうし。どうでしょう? ここは社長に恩返しをするためにも、ご尽力いただけると非常に有り難いのですが」
丁寧な口調だが、中身はこれ以上にないってほど恩着せがましい言い草である。
「……そ、それはそうですけど、別に頼んだわけでは」
確かに少々心苦しくはあったけれど、穂乃香のせいではないしそもそも頼んだ覚えもない。
社長には母の残してくれた生命保険で立て替えてもらった分の返済を申し出たのだ。それなのに。
『あれは、穂乃香を傷つけた男のことがどうしても許せなかった俺が独断でやったことだ。穂乃香が気に病む必要はない』そう言って取り合ってくれないのだ。
反論しかけた穂乃香の代わりに、再び奏の力強い援護射撃が飛び交った。
「柳本、恩着せがましいことを言うな。俺は穂乃香の気持ちを尊重したいんだ」