紳士な俺様社長と離婚前提の契約婚!?

 柳本からの説明を受けた樹から、自動的に雪にも伝わっているだろう。

 今更、なかったことになどできるわけがない。真実を話したところで、余計な心配をかけるだけだ。

 先手を打った柳本に完全に退路を断たれてしまった穂乃香がガックリと項垂れていると、『柳本グッジョブ!』とでも思っているのだろう奏から嬉しそうな声が届いた。

「なんだ、そうだったのか。それならそうと、もっと早く言ってくれればいいものを……まったく」

 力なく隣の奏に視線をやると、心底嬉しそうに穂乃香にきらきらしい笑顔を向けて同意を求めてくる。

「穂乃香、柳本にしてやられたなぁ」

 奏にとっては、願ったり叶ったりの嬉しいサプライズだったに違いないが……。穂乃香にとっては、最悪極まりない事態だ。

 キラキラと煌めく気泡を揺らめかせているシャンパングラスを手にした穂乃香は、この世に生を受けてから二十七年という人生において、開いた口が塞がらないという状況に三度《みたび》追い込まれてしまったのだった。

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