おともだち

多江

 駅はいつにも増してひどい混雑で、うんざりした顔の人であふれていた。タクシー乗り場も周辺も人であふれ、それぞれ不機嫌にスマホをいじっていた。電車の遅延があったのだろうと悟る。いつもの路線ならすぐに帰れたのに。

 遅延かと思ったら、電車は全く動いてなかった。よりによって私の乗ろうとしていた路線で、復旧のめどが立っていない。

 違う駅まで歩いても30分から40分はかかる。そこから遠回りして家に着くにはかなり時間が掛かる。ここで復旧を待った方がいいだろうと無駄にうろうろしては、栄司に連絡を試みるけど、繋がることはなかった。挙句の果てにスマホの充電が切れそうだ。こんな日に限ってモバイルバッテリーも持っていない。

 私も周りの人たちと同じように苛立ちが顔に出ているだろう。

 ――やっと動き出した電車は到着した時点で満員で乗りこめそうもない。何度か見送っているうちに、時間は日付を越えようとしていた。
 もう待っていないだろうという気持ちと、待っていたら申し訳ないという気持ちと、会いたいという気持ちで改札出た瞬間、走り出した。

 誰かにぶつかって、心底自分の不甲斐なさに嫌になる。謝罪のために見上げると、栄司だった。――栄司だ。ふっと気が緩み、泣きそうになるのをぐっと堪えた。

 そうまでして私を呼び出したはずの栄司の投げやりな態度に、今日1日の上手くいかなかったこと全部ぶちまけたくなる。何なのよ、もう。何なの。

 「さぁ、何でだろうな。とにかく、ああ、もういいや。タクシーで帰るけど、俺が会いたかったのは()()なんだよ」


 わざとスマホの電源を切って、何がしたかったのよ。そりゃあ、終電、大事だけど。

「じゃあ、栄司の2回の呼び出しはまた今度使えばいいじゃない。何も難しいこと考えずに誘っていいって言ったよね。そういう関係だって! じゃあ、今からは私のターンじゃない。うちに入ってよ! 」

 栄司はポカーンして、パチパチ瞬きをした。それから
「更新すんのかよ、この関係……」
 そうつぶやいた。

 更新しないよ。けど、関係を変えたいんだよ。
< 137 / 147 >

この作品をシェア

pagetop