おともだち
 栄司は、きゅっと口を結ぶと、私の背中に手を添えくるりと方向転換した。

 オートロックを解除してマンションのエントランスに入った。エレベーターに乗って部屋のドアまで無言だった栄司が私を見つめる。


「ねぇ、わかってんの。部屋に入る意味。俺もう終電無いんだよ」

 もちろんわかっている。小柴さんとはどうなったの、とか。加賀美くんの後輩の女の子とはどういう関係、とか。聞きたいことはたくさんある。そもそも、栄司の用は何だったのかも気になるし。でも……。

「わかってる」

 私が答えると、栄司の目が優しく細められた。
 ドアを開けて中に入ると、栄司は後ろ手でドアを閉めた。バタンと音がする。その音を合図にせき止められていた感情が溢れた。邪魔するものは何もなく、栄司の胸に強くぶつかるよう抱きつくと、栄司は片腕で私を受け止め、もう片方の手で手早くカギをかける。目が合うと一秒だって我慢できずに背伸びをした。
 栄司が私の頭を抱えるように引き寄せる。感情のままに、強く唇を押し当てる。離れたくなくて栄司の首に回した手に力をこめた。何も考えられなくて、ただ、お互いの気持ちを確かめるように何度もキスを交わした。

 どれだけの時間が経っただろう。栄司の首に回していた腕を下げ、ほんの少し身体を離すと近い距離で見つめ合いはにかんだ。恥ずかしくなってきて、でも離れがたくて両手を栄司の腰へ回す。

「同じ気持ち、でいいんだよな」

 そう言う栄司に頷いた。

「うん」
「そっか、わかってるなら……」

 栄司はそう言って身体を()()()()離し、ようやく中へ入ることになりそうだった。が、栄司の眉間にみるみる皺が寄って、強い力で腕を引かれた。
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