おともだち
 いつもは、私の呼び出しに逆らうことなく「そうだね」って言ってくれる栄司がこの日は頑なで、それがもうこの関係の終わりを告げていた。

 私と栄司は同じ気持ちだった。それでいいんだよね。
 さっきの溶けそうなキスが嘘のようにクールな顔で栄司が言った。

「……座ろうか」

 同じ気持ち、それがわかればいいと思っていた。もう『セフレ』なんて曖昧な関係は続けたくない。

「かわりに、付き合って欲しい。多江が好きだから」
 こうやって、ちゃんと言葉にしてくれること、不安にならないようにしてくれること。ひとうひとつ、寄り添ってくれること。栄司が私のことをちゃんと考えてくれてるからだって、どうして気づかなかったんだろう。
 
「わた、わたしも、付き合って欲しい。ちゃんと。栄司が好きだから」
「いいのか、ほんとうに? 」
「うん。もう、曖昧な関係は嫌だ。だって、栄司が他の人と付き合ってしまうかもしれないのは、嫌なの」
 小柴さんと並ぶ、栄司。加賀美くんの後輩と並ぶ栄司、それをただ見てるだけなのはもう嫌なの。他の女の人と親密にしないでって言える関係になりたい。

「俺はずっと多江が好きだって言ってるだろう」


 聞きたいことはたくさんある。『復讐』って何?小柴さんは?『りっかちゃん』は……?
 それから、『好き』は今日初めて言われたよって。でも今言うのは違うのわかってる。自分のこの感情に自分で水を差すようなことはしたくなかった。唇は塞がれていて、物理的にも言えないんだけど……。
 今は何も考えずにこの幸せに溺れていたい。
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